社会情勢の変化が激しい現代では、過去の延長線上にはない新しい常識が生まれることがあります。ある一人の描く理想が、SNSを通じて他者を巻き込み、社会を変える大きなムーブメントに変わっていく流れを感じている人もいるのではないでしょうか。

シェアリングエコノミーの推進や、ミレ二アル世代のシンクタンクPublic Meets Innovationを立ち上げ、代表を務めている石山アンジュさんは、日本でシェアリングエコノミーの考えやスタイルを、真っ先に発信してきた立役者です。今では「シェア」の提唱だけでなく、国政を巻き込みながら、新しい政策や社会の在り方を、世の中に広く問いかける活動もされています。

石山さんは、まだ世に馴染みのなかった新しい概念を広げていくために、どのようなプロセスを経てきたのでしょうか。自分の理想をもって「社会を動かす」ために必要な考え方を紐解きます。

正解はない。だから私は「問いを渡す人」でありたい

―石山さんは2016年に一般社団法人シェアリングエコノミー協会の設立に参画され、そこから「シェアリングエコノミー」の普及に尽力されてきました。現在あらゆるメディアやサービスで「シェア」という概念をよく聞くようになったのは、石山さん方の働きかけが与えた影響が大きいのではないか、と感じています。協会の立ち上げに関わり、社会に広く普及していく活動に舵を切られたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

シェアリングエコノミー協会の立ち上げに参画したきっかけは、フランスで行ったシェアリングエコノミーの視察でした。当時私は、株式会社クラウドワークスに勤めていたので、働き方をシェアする豊かさは実感していましたが、視察を通して「働き方だけではなく、衣食住すべてのものがシェアで解決できるかもしれない」と考えるようになったんです。もっと広い視野で「シェア」を捉えた多様な取り組みを、多くの人に知ってもらいたいという思いで、シェアリングエコノミー協会の立ち上げに携わっていました。

ーシェアリングエコノミー協会は、多様な人を巻き込み、現在に至るまで「シェア」を社会事へと進められています。立ち上げ当初に人を巻き込むために、石山さんが意識されていたのはどんなことでしょうか?

異なる世代や業界などのさまざまなセクターの人に、いかに共感してもらい、連携してもらうかを意識してきました。例えば、政治家や官僚の方と初めて仕事をした際、彼らと自分の言語が全く違うことに気がついて。そこで私は、初めに共感してくれた官僚の方と仲良くなって、政治の世界のことを教えてもらい、伝え方も相談したんです。

その方のアドバイスを受けて、ロビイング活動の際には、あえてインパクトのある「ライドシェア」などの言葉を使わずに、政府が抱えている社会アジェンダに照らし合わせて、「新しい“共助”の仕組み」や、「新しい“セーフティーネット”のあり方」など、社会課題に対してシェアが貢献するテーマを重視して説明するようにしていました。

他にも「シェアリングエコノミー」という横文字にアレルギー反応を示す方たちや、「自分たちの業界を脅かすのでは」と懸念している方たちにも齟齬なく伝わるよう、相手の世界や言語、背景を学んだ上で、言葉を紡ぐようにしてきました。

また、私自身がライフスタイルの中にシェアを取り入れ、実際に体験した楽しさや豊かさを伝える活動もしています。拡張家族というコンセプトを掲げるシェアハウス「cift」もその一例です。必要性や効果を発信するだけではなく、初めて「シェア」を耳にする人にも伝わるように、実体験を通して話すことも大切にしてきました。

―伝えたい核となる想いはブラさずに、伝え方は相手に合わせてとても柔軟に変えているんですね。

どうでしょう、そうなのかな。ただ、柔軟でありながらも、方向性の舵取りはできるように工夫しています。以前、「シェアリングエコノミーは副業で稼げる」というテーマで企画されたテレビ特集への出演を依頼されたときには、シェアの多面的な価値や大切さも伝えられるよう、企画内容を調整したこともあります。

―そんなこともあったんですか。また、社会的な活動をされる方の中には、思いが強ければ強いほど伝える言葉が強くなったり、社会に対する怒りが言動に反映される人もいると思います。その点、石山さんはとても自然体な姿で発せられているように見えますが、言葉だけではなく、届ける姿勢においても工夫されていることはありますか。

私の基本姿勢は「世の中に正解はない」なんです。人は、自分自身が信じたい世界を生きていると捉えています。説得されるだけでは人はきっと納得できないし、「こうあるべき」を押し付けられることで、対立が生まれてしまう。だからこそ私は、正解を伝える人ではなく、「問いを渡す人」でいたいんです

また、仕組みやシステムが、全員を幸せにする解決策になるとは信じていません。仕組みをアップデートしていくことだけではなく、同時に意識をアップデートしていくことも必要。私は一般社団法人Public Meets Innovationというシンクタンクコミュニティや、シェアリングエコノミー協会という業界団体を通じて、制度や政策作りに関わったりしていますが、最後はやはり意識の問題で、人の良心がすべてだと信じているんです。システムと意識、この両輪が動的平衡的に揺らいでいきながら、社会はより良くなっていくと思っています。

根幹にある「人の良心を諦めたくない」想い

―「最後は意識の問題」「良心がすべて」といった言葉に、石山さんの並々ならぬ想いが込められているのを感じます。なぜこのような考え方を持つようになったのでしょうか。

自分のフィロソフィーの根幹に、幼い頃から「人類の生まれ持った良心を諦めたくない」という思いがあるんです。人は生まれながらにして良心が備わっていると信じていますし、一人一人が自分の良心に従って行動することで、良い社会になっていくと考えています。

また、大学で学んだことも考え方の根幹に影響しています。世界平和を実現したいと思い、平和研究を学べる大学に進みましたが、結局は、政治や経済のアプローチでは、貧困問題や戦争問題において、「誰一人取り残さない」ということは不可能だと気づいて。「世界平和は実現できないじゃん」と、一度は落胆したんです。

しかし、戦争をしている国同士だとしても、目の前にいる子がおなかを空かせていたら、もしかするとパンを分け与えるかもしれません。だったら、平和の最後の砦は、人の良心ではないか、と思うようになったんです。

シェアリングエコノミーの活動は、個別最適化される資本主義システムの中で、お互いに思いやりを持ち、良心に従って生きる人を増やす取り組みでもあります。例えば、ホテルに宿泊する場合、使ったタオルをそのまま置いておくのが普通ですが、Airbnbで宿泊すると貸主のことを気遣って、きちんと畳んで置いておこうと考えたりしませんか。シェアリングエコノミーは、そういう人間味や温かさのある経済システムなんです。

幼少期の体験と、社会で感じた課題感が「シェア」で結ばれた

―子供の頃からの夢だった「世界平和」の実現と、「シェアリングエコノミー」の活動は、良心というキーワードでつながっていたんですね。そもそも、なぜ石山さんは「シェアリングエコノミー」を広げるための活動を始められたんでしょうか。

活動を始めた時期は社会人3年目の後半で、2つのきっかけがあります。1つ目は、仕事の中で見えてきた課題。私は新卒で株式会社リクルートに入社し、企業の新卒採用や面接、人事のコンサルティング、広告に携わる仕事をしてきました。その中で、個人の人生において、本人の意思と組織の論理のバランスに疑問を抱いたんです。

例えば、会社に「明日から転勤です」と言われたら、社員は住む場所を変えなければいけません。また、景気の変動で、採用人数が大幅に減少するなど、個人の実力に関係のないところで挑戦の機会が狭められてしまうこともあります。

こうした現状を解消できる、組織に従属しない働き方を探し始めた頃、ちょうど日本で登場し始めていた「クラウドソーシング」や「ライフシフト」という考え方に出会いました。プラットフォームを通じて、個人と個人が自由に仕事を受発注できるスキルシェアの仕組みに強く可能性を感じて。しかも、まだまだ日本でその分野を取り組んでいる人は少なかった。「それなら私がやりたい、やらなきゃ」と思ったんです。

もう1つのきっかけは、私の育ってきた背景にあります。私は実家がシェアハウスでした。血のつながりのないお兄さんお姉さんと暮らすその環境を、とても豊かだと感じていたんです。当時は「シェア」なんて言葉は知りませんでしたが、従来の家族の枠組みを広げたその環境は「家族のシェア」だと言えることに気づいて。未婚の方が増えたり、パートナーシップの多様性が増える世の中において、新しい選択肢を提示できることに意義を感じました。このとき、私の中に「この概念を広げていきたい」という使命感が芽生えたのだと思います。

―育ってきた環境と社会人になって抱いた課題感が、「シェア」によってちょうど結びついたんですね。

そうですね。それから、スキルをシェアするクラウドソーシングサービスを展開している株式会社クラウドワークスに転職し、経営企画で広報やIRの仕事に携わりました。その仕事の中では、クラウドソーシングを使うことで障壁を乗り越え、新しい働き方ができるようになった事例をたくさん聞きました。

出産を機に仕事を辞めざるを得なかった人が、働く手段を得られた話や、震災を機に家族との時間を大切にしたいと思った方が、納得のいく働き方にシフトできた話。この頃に、仕事を通じて「シェア」が新たな豊かさを作っていく確信を得られたんです。

ぶれないために大切な、自分も当事者であるという意識

―それから石山さんは、「シェアリングエコノミー」の普及活動を続けられ、現在はシンクタンクの設立などの、社会の仕組みづくりにも挑戦されていますね。直近で感じられている課題感や、今後の展望についても教えてください。

あえて素直に心の内を話すとすれば、最近は「死ぬまでに自分が描いている理想の世界に辿り着けるんだろうか」という危機感を感じることがあります。

子どもの頃から自分なりの世界平和について考え、「シェア」に出会い、思いを発信してきました。そこから、シンクタンクの設立など活動の幅を広げている中で、本格的に「社会全体にどう影響を及ぼしていけるのかを考えるフェーズ」に入ったと思うんです。目指すものの大きさに、焦りを感じているのかもしれません。

そうした背景もあって、最近は仕組みと意識の両輪のうち、改めて「意識に働きかけることの必要性」を強く感じていて。なぜなら、究極的なことを言えば、今この瞬間に世界中の人たちが自分の良心に目を向けたら、ほとんどの社会問題が解決するかもしれないと思っているんです。だとしたら、長い時間軸の中で仕組みを変えたりすることなく、あっという間に社会を良くできる。

ー確かにそうですね。贅沢の裏に存在する劣悪な労働環境や、社会の不合理を直視した際に、自分の良心に問い行動を改めることができれば、あらゆる社会課題は解決するのかもしれません。ただ、現実の環境下では、簡単なものではない。多くの人が、本来備わっているはずの「良心」に目を向けるにはどんなことが鍵になりそうでしょうか。

大切なのは「人間関係の面倒臭さを取り戻すこと」だと思います。物や場所を貸し借りするシェアリングエコノミーも、血の繋がっていない人と共同生活する拡張家族も、自分の経験していない世界を理解しようと努めるシンクタンクも、自分の世界に閉じこもっていれば経験し得ない、ある種の面倒臭さを含んでいます。自分と違う他者と関係性を築くという、面倒臭くも豊かな営みこそが、人の良心を揺さぶるんです。

―人との関わりを持つからこそ、相手を思いやり、誰かを幸せにしたい気持ちが生まれる。その良心が社会問題を解決する鍵になる、と。また、読者の方が石山さんのような志を見つけるには、どうしたら良いのでしょうか。

私は誰もが、社会課題解決のような志を持つ必要があるとは思っていません。ただ、その人なりの理想を見つけることはできるものだと思っています。そのためには、日々の生活の中で「これは嫌だな。本当はこうなってほしいな」という小さな違和感のかけらを集めてみること。

例えば、電車内で子供の泣き声に困っているお母さんを見て、「もっと周りの人が温かく接してあげられたらな」と感じたならば、その違和感をちゃんと心に留めておく。その違和感のかけらがどんどん集まると「自分なりの理想」ができるんじゃないでしょうか。

そして、自分が見つけた理想は、ぜひ周りの人に話してみてください。私が活動を始めた当初のように、最初は周囲に理解してもらうのは難しい可能性もあります。しかし、周囲からの反応やフィードバックをもらい、どう伝えるかを模索していく中で、徐々に共感してくれる人が増えれば、だんだんと、自分の理想はみんなの理想になっていくんです。

その過程で大切にしたいのは、自分自身がその理想の当事者であること。私にとって、シェアリングエコノミーは自分が経験してきたことであり、将来の私たちや、私たちの子供世代が住む社会に直結することなんです。

自分が自分の理想の当事者でいる限り、実現しようとしているものが良いか悪いか、幸せになるかならないかは、自然にわかります。だから、原点にある想いがブレにくくなる。また、当事者だからこそ、足を止めるわけにはいかないという使命感も出てきて、活動はより力強さを増します。

今の若い世代が社会課題に関心が高いのは、今の行いによって変化する地球に住む当事者だから。彼らは20年後も30年後もバリバリ働いて、生きている当事者なんです。だからこそ、自分の日々の活動を社会課題に投じたいと思う人が多いのだと思います。

まずはそうした当事者意識を持ち続けていることが、自分の理想を社会の理想に変えていく上で大事なことじゃないかなと思います。

[取材構成編集・文] 卯岡若菜 、佐藤史紹、水玉綾

Beingは、
ひたむきに生きるビジネスパーソンが打ち明けた、
純粋な願いたちを集めました。

人として、組織として、社会として、
本当はどう在りたいか。

組織と事業の成長、取り巻く環境変化のなかで
ときに矛盾や葛藤、経済合理性にもがきながら
彼らがBeing-在り方-を磨いてきた過程とは。

ここでしか語られることのない
飾らない言葉たちを分かち合います。

さあ、本当の願いからはじめよう。

メディア「Being」は
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