ビジネスパーソンにとって、“成功”とはなんでしょうか。巷のビジネス書籍には「年収◯◯万円を稼ぐ方法!」や「最年少で役員昇格するには!」といった、刺激的な言葉を並べるものも多く、無意識にその姿を目指している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回お話を聞いた、デジタルマーケティング会社で事業部長を務める九日裕智さんも、そうした価値観で20代は仕事に打ち込んできました。しかし、順調に積み重ねていく実績とは裏腹に、心の中では行き詰まりを感じていたそうです。

現状を変えるためにZaPASSに訪れた九日さんは、コーチングによって「“すべきこと”ではなく“すでに持っているもの”に目を向け、本当に大切にしたい価値観に沿って生きる道が始まった」と語ります。

九日さんの心情に起きた変化について、詳しく聞きました。“今の仕事や生き方を見直したい”と胸のうちで願うあなたに、届けたい一本です。

(※本記事は2020年に取材したものをリメイクしてお届けしています)

これまでの成功パターンに行き詰まりを感じた

僕がコーチングを受け始めたのは、1年半前です。普段は、デジタルマーケティング会社で事業部長をしています。思えば、20代の頃から早く成長したくて、人より多くの経験を、表彰を、出世を、稼ぎを得る為に、頑張っていました。

「30歳ならこれくらい稼ぐべき」「部下にはこういう自分でないとダメだ」——僕は常に「こうあるべきだ」と思い込んだ観念の中で仕事をしていました。その観念を、他の人にも当てはめて、自分の「こうあるべき」から外れている人を見たときに、苛立ちや反発心が芽生える。それゆえに、職場は居づらくてどことなく孤独感を感じていたのです。

「自分は何がしたいのか」「どこへ向かいたいのか」…あなたはそう問われた時に、素直に自分の理想を答えられますか?当時の僕は、無意識的にも「こう伝えれば良い態度だろう」「褒められるだろう」という観点でしか、正直答えられませんでした。

1年半前の僕は、変わりたかったんです。行き詰まりから脱したかった。でも、10年間その成功パターンでビジネスをしてきて、どう変えたらいいか、誰に頼めばいいのか、分からない。そんな時に偶然出会ったのが、コーチの三橋さんでした。

“コップに入った水”に目を向ける

今でも忘れられない特別な瞬間は、3回目のコーチングで訪れました。「自分が本当にしたいことが分からない」と打ち明けていたときです。突然に「九日さんは自分のことを愛してますか?」と聞かれました。その真っ直ぐすぎる質問を前に、僕は言葉に詰まったのは言うまでもありません。愛している必要性も分からないし、愛が何かもよく分からない。でも、感情が動いたのか、なぜか目に涙が滲んだのです。

三橋さんはこう続けました。「周りの観念や“すべきこと”であなたはいっぱいいっぱいになっている。そのままでは苦しいのではないか。すでにコップには水が入っているのに、“なぜだか水の入っていない部分”をずっと見ているようです。九日さんがこれまでやってきたことは何ですか…?」

なにも答えられず、沈黙の時間が続きます。でも、心が動揺するから自分が何かを感じているのだと分かりました。ロジカルに生きてきた僕にとって、ロジックではうまく伝えられない、感情の動いた衝撃的な体験です。

話した場所も、あの日の風景も、僕は一生忘れないでしょう。あの瞬間、僕は“コップの水の入っている部分”に目を向けることを決めました。“自分がすでに持っているもの”に目を向けて、これまでとは違う自分に変わろうと、決めたのです。

「身近な人を幸せにしたい」という本音

ただ、最初はどうやって“自分がすでに持っているもの”に目を向けたらいいのか、分かりませんでした。三橋さんは「九日さんがこうした行動をされてきたから、今の場所がありますね」と言いました。抵抗感を感じながらも「確かにそうだな、頑張ってきたな」とひとつひとつ事実を受け入れていくと、次第に呼吸が深くなり、落ち着いていく感覚がありました。

毎月コーチングを重ね、三橋さんに改めて「本当は何をしたいのでしょう?」と問われた日のこと。これまで当たり前に目指していた、“より多くの市場にインパクトがある事業を創ること”や“多くのキャッシュを稼ぐ事業を作ること”は、もう、どうでも良いように思えて。それより本当は、“僕は身近な人を大切にしたい”気持ちがあることに気づいたんです。

翌日、会社のメンバーに、この思いを打ち明けてみました。すると、「じゃあ九日さんは、今後どういう事業にする未来を考えているんですか?」と聞かれ、正直ビクッとしましたね。“格好良いビジョンやミッションを立てるべきだ”と思い込んできたから。

ですが、勇気を出して伝えたのは、正直な気持ちの方でした。「本当は、ビジョンやミッションを描くことは苦手なんだ。僕にとって大事なことは、一緒にやっているみんなが幸せであること。絶対に不幸せな事業、チームにはしないから。」

メンバーは、数ヶ月前の僕らしからぬ発言に戸惑いながらも「そういう九日さんを見ることができて、良かったです。」と笑って、苦手な役割は引き受けてくれることに。なんでも意思決定をして、自分ひとりで頑張っているつもりだった僕が、はじめて人に心から仕事をお願いできた瞬間でした。

周りに対する見え方も変わっていきました。課題ではなく、個性や頑張りが見えてくるように関係性は良くなり、僕にとって職場は戦いではなく、安心感を感じられる場へ。人生で大切にしたい価値観に合わせて動くと、こんなにも満たされることを僕は知ったのです。

自分を愛するとは、現状に満足することではない

コーチングを始めた当初、“自分を愛すること”が分からなくて、「その問いかけには意味がありますか?」「どういう意味があって僕にそれを聞いているんですか?」と何度も聞き直しました。自分を愛することで、“そのままでいい”と現状に満足してしまうのではと懸念していたんです。

そんな僕に対して、三橋さんは「自分の能力は使われるものです。誰かに求められる限りは、どこまでも進んでいけます」と話してくれました。価値観、願い、性質、得意不得意——本来の自分をありのままに受け入れることで、能力の使い所と使い方が見えてくる。愛にはそうした側面があることを教えてくれたんです。

その言葉通り、僕は「自分を愛すること」で、以前よりも安心安全な職場を作り、自分だけでなくチームメンバーの能力を引き出すことができたように思います。結果、“役員の打診をもらう”という思わぬ副産物もありました。格好良くあるために「役員になるべきだ」と思っていた頃であれば、大喜びしたであろう知らせを、今は穏やかな気持ちで受け取っています。だって、役職がどう変わろうと、実現したいことは変わらないんですから。

僕はこれからも、“家族やパートナー、身近な人を大切にする”という大切な価値観を胸に、精進していきたいと思っています。何かを変えたいけど、どう変わったらいいかわからないビジネスパーソンの方は、自分を愛すること——“すでに持っているもの”に目を向けることから始めてみるのはいかがでしょうか。

[取材構成編集・文] 水玉綾、林将寛、佐藤史紹  [撮影] 戸谷信博

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組織と事業の成長、取り巻く環境変化のなかで
ときに矛盾や葛藤、経済合理性にもがきながら
彼らがBeing-在り方-を磨いてきた過程とは。

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さあ、本当の願いからはじめよう。

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