多様な働き方が生まれる中、企業には生産性だけでなく、個人のやりがいや幸福の追求が求められています。株式会社ネットプロテクションズ(以下、NP)は「つぎのアタリマエをつくる」を理念に掲げ、2018年にはマネージャーのいない人事制度「Natura」をリリース。ティール型組織運営が話題になりました。

今回は、執行役員で人事責任者として「Natura」を構築された秋山瞬さんにお話を伺いました。組織運営で大切にしている考え方、ティール型組織を目指すリーダーに求められる在り方とは?

メンバーが子供のように夢中になれる組織

ー2018年にリリースされた、マネージャーのいない人事制度「Natura」が多くの反響を呼ぶなど、NPはティール型組織運営をしている企業として注目されていますね。組織作りにおいて大切にされていることを教えてください。

NPの組織作りのベースにあるのは、「主体的な個人でいよう」という考えです。それが、個人に存在意義を強く感じさせ、幸福度を上げる要因になる。そして、突き詰めていくと成果にもつながっていくと思っています。

主体的であるとは、何かに夢中になって目を輝かせている子供の状態をイメージしています。そういう時の子供は、好きなことを好きなようにやって、誰にも邪魔されずに、勝手に突っ走れる。しかし、周りが「それはよくない」「もっとこうした方がいい」と言い始めると、モチベーションを下げることにつながります。本来人が持っている好奇心や熱量を邪魔せずに、発揮していくサポートをすることが大切なんです。

ーそのためにされている取り組みはありますか?

「ワーキンググループ制度」という、業務時間の20%を自分の興味のあるプロジェクトにチャレンジすることができる制度を導入しています。その制度を利用して、当時新卒3年目だったメンバーが、商品の購入後にユーザーが値決めを行うポストプライシングの仕組み「あと値決め」を立ち上げました。

彼はまさに「目を輝かせた子供」でした。入社1年目の時から、こんなサービスを作りたいと、提案を繰り返していましたが、事業戦略上のタイミングや収益性の課題から、なかなか実現できなくて。しかし、立ち止まることなく、この観点がだめなら、この方法でどうだと、実現できる方法を探し続け、とうとうリリースするに至りました。他にも、入社3・4年目のメンバーが、自ら台湾の市場調査を行い、台湾向けの後払いサービス「AFTEE」もリリースしましたね。

お互いの根本的な価値を共有し合う文化

ー「主体性を持つこと」が組織に浸透しているんですね。メンバーが主体性を持つことで、多様な意見が生まれ、時に衝突するようなことも出てくると思います。組織としてまとまりを持つにはどうしたらいいんでしょうか。

大前提、みんな会社や社会の為になると思って意見を出しているんですよね。でも、そう感じ合うことができないから衝突が起きてしまいます。NPでは、目の前の人と意見が異なっている時に、もう一段抽象度を上げて話し合うことを大切にしています。すると、一見対立しているように見える意見でも、実は同じ目的だったと気づき、落ち着いて議論することができるんです。

少し似ていますが、他にも「部分最適ではなく全体最適」で考えることも大切にしています。たとえば、セールスマーケティング部門と、カスタマーサービス部門、システム部門の利害が衝突することは、組織によくあることです。互いの利害を超える為には、どれかの部門を優先させるのではなく、「お客様や会社、社会にとって一番良いことは何か?」という問いをもとに考えることが重要です。

ーそうした建設的なコミュニケーションは、問いだけを真似てもなかなか実践できるものではありません。NP特有の文化があるからだろう、と思います。

そうかもしれません。僕も方法論だけではなく、根本にある文化が大切だと思っています。表面的な意見や言葉尻に反応するのではなく、その発言の背景にあるもの。つまり、氷山でいえば海に潜っているところまで理解し合おうという文化です。

NPではよく、オフサイトで文化を耕す時間をとっています。過去には、人生のライフチャートを書いて、全メンバーで共有し合いました。お互いの根本的な価値観を理解できていると、伝えたい意見のニュアンスを汲み取りやすくなる。その結果、個人が主体性を発揮しながらも、全体のまとまりを失わない組織になると考えているんです。

「嘘をついてはいけない」というエゴとの対峙

ー個々人が主体的に動き、お互いを理解し合う組織がティール型組織につながるわけですね。そういった組織のリーダーや経営者に求められる素養とはなんでしょうか。

『ティール組織』という本の中で、ティール型組織とはメンバーを機械における歯車の一部ではなく、生命体・有機体における細胞の一つだと捉えると書かれています。これは僕の解釈ですと、主体的な個人が、仮面を被らずに、全体性を持った状態で存在できる環境のことです。

トップダウンで組織変革をしたり、一方的な教育をしたりしても、メンバーは主体性を発揮しづらくなります。さらに、上司に受け入れられやすい人格しか出さなくなり、全体性を持つことの逆をいきます。ティール型組織へと近づくためには、経営者や、組織変革を担うリーダーが、コントロールを手放す必要があるのではないでしょうか。

コントロールの根本には自分の欲、つまりエゴがあるんです。エゴとは「◯◯すべき」という考え方のこと。これがあると、無意識のうちに相手に対してそれを強いてしまい、相手の全体性を阻害してしまう。僕はそんな風に捉えています。

ーなるほど、非常に深い観点ですね。秋山さんも自分のエゴを感じる瞬間はあるのでしょうか。

ええ。僕も人間なので、エゴはあります。僕の場合は「嘘をついてはいけない」というエゴと長く向き合ってきました。言葉を変えると「誠実にあらねば」に近いかもしれません。このエゴが強く発動してしまうと、自分にも他人にも不寛容になっていくんです。

一度掲げた目標を取り下げるのは、自分や相手へ嘘をつくことだと捉えて許せなかったり、ちょっとした嘘でも過度に反応したり。誠実にあらねばと思いすぎた結果、仮面を被って自分らしさを抑えてしまうこともあったんです。人から指摘されたこともあり、苦しかった覚えがあります。

ーどのようにしてそのエゴは解消されたのでしょうか。

完全な解消はなく、永遠と向き合うものだとは思いますが、まずは自分のエゴについて自覚するところから始めました。5年前からお世話になっているパーソナルコーチに伴走してもらいながら、幾つもの問いを投げていただき、エゴの奥にある原体験を振り返りました。

すると、幼少期のとある経験から「嘘をついてはいけない」と信じるに至ったことが分かって。原因が分かってもすぐに治るわけではありませんが、自分が反応するシーンや、癖を知ったことで、持病のように上手く付き合えるようになりました。そうした価値観も含めて自分だと考えられるようになったのは、ここ2・3年ですね。

ティール型組織を作るには、経営者や組織変革を担うリーダー自身が、自分のエゴを自覚し上手く付き合えるようになることが大切だと思います。すると、無意識に出てくる、他人をコントロールする自分ではなく、本当に望んでいる自分らしい状態でいられるようになる。リーダーが全体性をもってメンバーと接するからこそ、メンバーも自分らしく在れる安心安全の環境に近づくと思いますね。

斜めの関係性が、◯◯すべきを解消する

ーエゴを受け入れて自分らしくあることが、コントロールを手放すことにつながり、他の人の自分らしさを引き出すことになる、と。自分らしくいやすい環境を作るために行っている工夫はありますか?

「◯◯すべき」という価値観は、目の前のものに集中する一生懸命な人ほど持ちがちですから、コーチのように客観的に見てくれる存在がいることが重要だと思っています。NPでは、その考えを基に、新卒メンバー1人と部署や年次がバラバラの先輩メンバーが4、5人でグループを作る「ファミリー制度」を設けています。グループ内で、日々の相談をしあったり、ランチを食べたりするんです。

そこでは自然と自分の思考の癖や、在り方を見直せるコミュニケーションがとられています。たとえば、若手メンバーが新卒メンバーに対して「NPに入ったんだから、WILL(意思)を持たなきゃ」と、「◯◯すべき」という関わりをするとします。一生懸命だからこそ起きることですが、その関わり方がプレッシャーになって、新卒メンバーの「らしさ」を抑えてしまうことも。

そこに年次が上の先輩がきて「今すぐWILLが分からなくても良いんだよ。一緒に探して行こう」と声をかけてあげることで、1年目のメンバーは心が軽くなります。それと同時に、フィードバックをした若手メンバーも、自分が教育しなきゃならないという束縛から解放されるんです。

直接的な縦の関係性だけじゃなくて、斜めの関係性だからこそ、フラットなコミュニケーションが生まれ、それぞれの「らしさ」を恐れずに出しやすい環境ができているのだと思います。

ー役割があると生まれやすい「◯◯すべき」を、上手く解消されているんですね。では最後に、NPがこれから組織作りで取り組んでいきたいことを教えてください。

NPには「つぎのアタリマエをつくる」という理念があります。それは言い換えれば「今の特別では終わらない」ということです。NPはいい組織を作るだけではなく、いい組織の在り方を社会に浸透していくまで広げていきたい。「あれ、昔の組織はヒエラルキーだったの?」という会話が自然と生まるようになったら、アタリマエにできたということですね。

教えるなんていうのはおこがましいので、NPがトライアンドエラーで探究してきたことを分かち合いつつ、一緒に探究を進めてくれる組織と学びあっていけたら良いなと思います。

[取材構成編集・文] 水玉綾、佐藤史紹 [撮影] 伊藤圭

Beingは、
ひたむきに生きるビジネスパーソンが打ち明けた、
純粋な願いたちを集めました。

人として、組織として、社会として、
本当はどう在りたいか。

組織と事業の成長、取り巻く環境変化のなかで
ときに矛盾や葛藤、経済合理性にもがきながら
彼らがBeing-在り方-を磨いてきた過程とは。

ここでしか語られることのない
飾らない言葉たちを分かち合います。

さあ、本当の願いからはじめよう。

メディア「Being」は
ひたむきに生きるビジネスパーソンが打ち明けた、
純粋な願いたちを集めました。

人として、組織として、社会として、
本当はどう在りたいか。

組織と事業の成長、取り巻く環境変化のなかで
ときに矛盾や葛藤、経済合理性にもがきながら
彼らがBeing-在り方-を磨いてきた過程とは。

ここでしか語られることのない
飾らない言葉たちを分かち合います。

さあ、本当の願いからはじめよう。