近年、従業員の生産性を高める、組織マネジメントの方法論は幾つか出てきています。中でも、仕事の生産性だけでなく、多様な働き方や自分らしい生き方を模索し、自らコーチングを学ぶ人が増えてきているのを感じます。

本記事では、ZaPASSの経営顧問・小寺毅さんと、同CHROの垂水隆幸さんによる「“生き方が問われる時代”にコーチングを学ぶ意味とは?」の対談イベントの中で、経営や仕事にコーチングを取り入れたいと考える人にとって、ヒントになりそうな箇所を一部抜粋しお届けします。コーチに求められる在り方、人間観とは。

癒しだけのコーチングは片手落ちなのかもしれない

垂水さん:まずは少し深く「コーチングとは何か?」という問いを探究していきたいと思います。

小寺さん:普遍的な定義というよりは、自分自身がコーチとして歩む中で、追求していきたい在り方をお伝えします。それは、その人が持って生まれた命や、才能や個性を存分に発揮して生きていくことを支援する存在であること。コーチングでは、そうした支援を成し遂げていくための、関わり方の技法や思想哲学が大切だと思っております。

垂水さん:いいですね。僕はコーチングとは「自分の願いを指針に生きることを促すプロセス」だと捉えているので、重なります。

また、もう一つありまして、コーチングとは「自分の人生との正対を促すプロセス」だとも思うんです。正対とは、真正面に向き合うこと。願いを指針に生きる事は必ずしもハッピーなことだけではなく、苦しいこともあるわけです。そういう物事に対して正対していくことが、一つコーチングのテーマじゃないかと。

だからこそ、コーチングを通じて「よかった」「リラックスできた」「聞いてもらえた」という癒しだけで終わってしまうのは、僕は効力の片方だけしか発揮できていない、もったいない気もしているんですが、どのように考えられていますか。

小寺さん:同じように感じています。コーチングの効果が癒しだけでは、もしかすると少し片手落ちかもしれません。本来コーチングを通して、クライアントが自分自身と向き合うと、癒しと共に、持っている強さ、しなやかさ、美しさがどんどん溢れてくるとも思うんです。

自然界で植物が花を咲かせ、実をつけるように、人間も必要な果実を生み出すエネルギーを本来持っていると捉えています。成果が出ない時は、そのエネルギーの流れを妨げるものがある。コーチングを通して、流れの妨げになるものを捉えていくと、遅かれ早かれ、成果は自ずと出てくるはずだと考えております。

自分の欲、コントロールが苦しみを生む

垂水さん:自然という言葉が出ましたね。コーチングを突き詰めていくと、必ず「人間とは何か」「自然とは何か」という問いに行き着くように思います。

小寺さん:人間とは何か、自然とは何かを考える中で思うことは、人間が全ての領域において万能であるという考え方は勘違いじゃないかということです。人間であれば全てを解明できるはずだとか、また解明できないものは存在しないもの、価値のないものだと捉えることも。

垂水さん:その延長線上で、自然の原理で動く、自分の感情すらも制御できるはずだと勘違いも生まれているんじゃないでしょうか例えば、仕事に感情は不要だとか、感情なんか介在させず論理でいくんだ、みたいなことがいろんな局面で出てきている。それが我々の自然の在り方を妨いでいるんですかね。

小寺さん:そういうことだと思っております。その心の動きが、先ほど話したエネルギーの流れの妨げになるのかなと思います。組織においても「何事も計画通りに進むことが良いことだ」という、コントロールに寄った考え方が苦しみを生んでいるのではないかと、問いを投げたいと思っています。 

垂水さん:確かに、これまでコーチングのセッションをしてきた中で、上手くいかなかったのは常に「どうにかしてあげたい」と僕がコントロールの気持ちを持っている時でした。元気になってほしい、パフォーマンスあげてほしい、救ってあげたいと思っている時はうまくいきません。

小寺さん:コーチとしての“自分の欲”が駆動しているときは、うまくいきづらいものですよね。

垂水さん:これまでの話をまとめると、小寺さんが考えるコーチングとは、自分の願いに気づいてそれを指針に生きていくことを促すプロセスであり、その過程の中で結果として癒しだけでなく果実があるもの、なんですよね。

自分を観察し「無常」こそが当たり前であると安息していく

垂水さん:これまで、コーチングとは何か、について話してきました。ここからはそのコーチングを行うコーチについて話していきたいと思います。

小寺さん:前提として大切なのは、先程の話とも通じますが、全てはわかること、全てはコントロール可能な事だ、という世界観から離れていくことだと思っており、「無常」が1つの大事な感覚だと捉えています。何事も常に変化、変容している世界に対して安心感を感じられることが、意識のシフトとして必要だと思います。

垂水さん:そのようなシフトをするための、ポイントはなんでしょうか?

小寺さん:「自分とは何者なのか」という問いと向き合うことです。心の中に湧き上がってきている気持ちや考えがどこから来てるのかを捉えていくこと。その上でどうしていきたいのか、選択をより自覚的にすることが、無常の世界で心穏やかに過ごしていく生き方に繋がると思っています。

自分を観察して捉えることができればできるほど、周りのことを観察でき、周りの人が自分自身と向き合う空間を生み出せると思うんです。ですから、非常に大事にしているのは、まずは自分を観察すること。

垂水さん:なるほど。自分をつぶさに観察してみれば、自分っていうのは常に変化していて無常であることに気づき、他者が無常であることに気づき、自然が無常であることに気づき、全てが無常だと捉えていく。その状態が当たり前のものであると安息していくことで、自然な流れの中で生きていく、と。そうした在り方がコーチには求められるわけですね。

自分を明らかにすることは、他者との一体感を感じていくこと

垂水さん:今小寺さんが考える、「生き方が問われる時代」への変化に必要な役割や、環境はどのようなものだと考えていますか?

小寺さん:工業社会から自律社会への架け橋として、自律社会を体験していただけるような環境を育んでいきたいなと思っています。自律社会とは、個人個人が自ら考え、自ら望む人生を歩むような社会のこと(オムロン社が提唱するSINIC理論より)。具体的に、一番興味関心があるのは街づくりですね。

垂水さん:街づくりといいますと、自律社会においては、繋がりが大事になってくるとお考えなのでしょうか。

小寺さん:そうですね。繋がり、というキーワードは創業当初から大切にしてきました。僕の考えでは、繋がりには3つあって。1つ目が「自分自身との繋がり」。2つ目が「他者との繋がり」。3つ目が「自然との繋がり」です。この3つは分断されたものではなく、連動している、連関してるようなものだなと捉えております。

垂水さん:自分自身との繋がり、他者との繋がり、自然との繋がりは連関していると。おそらくこれは最初の方で話をされていた無常とも繋がってるような気がしてるんですけど。

小寺さん:まさにそう捉えています。自分、他者、自然の3つの繋がりから無常に繋げていただくなんて、垂水さんを好きだなって思いました!

垂水さん:好きだな、ですか!(笑)

小寺さん:僕の中では無常、さらに、無我とも繋がっている領域かなと思っております。無我は、人間が一つの個体ではありながら、根底ではお互い繋がっていること。さらに、自然の中の大きなものとも繋がっていて、切り離せないものだと捉えることだと理解しています。

垂水さん:自分とは何かを突き詰めていくと、自分と自分じゃないものの境界が溶けていく。これは仏教などいろんな伝統宗教が語ってくれていますけど、自分を明らかにすることは、他者との一体感を感じていくことなんですよね。それが人の在り方と向き合う、コーチという仕事で大切になるわけですね。

命はそんなにやわじゃない

垂水さん:では最後に、今後どのようなコーチの方が増えていくといいと思うか、考えをお聞かせください。

小寺さん:クライアントが自分の願いに沿って生き、命の中に内在してるものを具現化していく過程に関わることに、喜びや生きがいを感じられる人が増えるといいなと思います。今日の話を聞いて、心の中に何かが触れる方々とは一緒にその旅路を歩んでみたいなと思っております。

重ねてお伝えしたいのは、何でもかんでも進みやすいようにしてあげることがコーチの役割ではないということです。人は、人生の中で様々な体験をします。時にそれが痛みであっても、その体験をすることでたくましくなっていく。目の前の人が、その人自身の体験をしっかりと味わえるように伴走していくのがコーチの役目だと思っています。命はそんなにやわじゃない。そんなメッセージで締めさせていただければと思います。

垂水さん:今日一の名言が出ました、命はそんなにやわじゃない。そう信じる気持ちを胸に、人と向き合うコーチを増やしていきたいと思いました。あっという間の時間でしたけど、生き方が問われる時代にコーチングを学ぶ意味について、伝えられたんじゃないかなと思います。楽しんでいただけていたら幸いです。

[取材構成編集・文] 水玉綾、佐藤史紹 [撮影] 伊藤圭

Beingは、
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組織と事業の成長、取り巻く環境変化のなかで
ときに矛盾や葛藤、経済合理性にもがきながら
彼らがBeing-在り方-を磨いてきた過程とは。

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さあ、本当の願いからはじめよう。

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