「本音と建前」という言葉がある通り、特にビジネスの現場では、自分の本音以上に建前を上手に扱うことが、ある種のマナーのように捉えられることがあります。しかし、合理的な思考を重視した結果、「言いたいことが言えない」「想像以上のアイディアが出ない」といった閉塞感を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

IT×通信の領域で、経営課題の解決に取りくむFlat Holdings株式会社代表の星野純一さんは、創業以来、建前を大切にした経営によって順調に会社を成長させてきました。しかし、このままのやり方では想像通りの成長しか描けないことに危機感を覚え、現状を打破するヒントを求めてZaPASSのコーチングを受けることに。

コーチングを通して、建前ではない自身の「本音」に気付いた星野さんは、根本的に経営方針を変えることを決意。新しい採用手法や文化作りに挑戦しています。

星野さんが本音に気がついたプロセスと、その気づきがもたらした経営・組織の変化について聞きました。

(※本記事は2020年に取材したものをリメイクしてお届けしています)

“非連続的な成長”のために「本音」と向き合う

私がコーチングを受け始めたのは、1年半前でした。会社を創業して7年、30歳という節目を迎える直前の時期でした。20代は仕事に99%を費やしたので、30代は何に重きをおくのか、考えたかったのです。

また、会社は順調に成長を続けてきましたが、今のやり方では、10倍20倍といった非連続的な成長をしていけるとは思えなくて。起業した頃に考えた言葉はありましたが、今後もそれをメッセージし続ける自信がありませんでした。

何のために会社があり、どんな教育方針を置き、どんな人と一緒に働いていきたいのか——。コアな信条を明確にするうえで、経営者である自分の“本音”と向き合わざるを得ないな、と考えていました。

僕は、普段のコミュニケーションから、比較的本音を話すタイプではありません。常に合理的に考える性分で、その必要性を感じていないという理由もありますが、心のどこかでは、本音に気付くことから逃げてきたのかもしれません。

経営者という役割もありますから、とにかく会社を大きくするために、自分の思いを偽った振る舞いをすることも度々ありました。特に起業したての頃は、自分達を大きく見せる発言をして、帳尻を合わせるように成長してきました。建前の言葉や自己暗示が、成功体験にもなっていたのです。

ただし、そうしたことを繰り返しているうちに、自分が本音では何を考えているのか分からなくなって、自己対話に限界を感じ、コーチングを受けることにしました。

合理性を越えさせてくれた、純粋な気持ち

コーチングを担当してくださったのはコーチの宮本さん。特に会社の変化につながる、重要な本音に気づかせてくれた日のことは、今でも鮮明に覚えています。

当時、在籍していた子会社の社長から「独立したい」という相談を受けていて。合理性に重きを置く普段の私なら「会社の損になるから」と却下していたと思うのですが、なぜか、即座に承諾しました。

この出来事について、宮本さんから「なぜその判断をしたのでしょうか?」と問われ、考えていく中で、「こうしたい」と言う人がいたら、“全力で応援したい気持ちがある”という、今まで誰にも口にすることのなかった本音に気付けたんです。

合理性の奥に“隠していた本音”に気づいた瞬間は、気恥ずかしさを感じました。しかし、それに気づけたことが、個人のやりたいことを尊重して、背中を押せる組織へと、会社のあり方を刷新する重要な転機になったんです。

採用も評価制度も「やりたいこと」を後押しするものに

会社の在り方を考え、まずは採用説明会で伝えるメッセージを変更しました。「会社に長く勤めてもらうことは嬉しいけれど、それを求めているわけではない」と、一切隠さず正直に言うようになりました。

入社したメンバーが長期間働いてくれることは嬉しいことですが、今の時代、1社に就職したまま生涯を終える人は少数派。転職を繰り返して市場価値を高めたり、ビジネス力をつけてフリーランスで働く選択肢は当たり前になってきます。メンバーが転職や独立をしたいと思った時に、それを上司や周りの人に遠慮なく相談できる環境にしたかったんです。

実際に「1年半後に退職したい」という意向を持ったうえで、入社してくれたメンバーもいて。望む方向性に向かうために、うちの環境を思う存分使って欲しいと心から思いましたね。

また、弊社では社内だけではなく、市場での価値も大切にしています。市場価値が上がれば、その人が何かをしようと思った時に、挑戦しやすくなる。もちろん自社で取り組んでくれてもいいのですが、外に飛び出して自分の可能性を試すという選択肢も、持ってほしいと考えているんです。

本音に根ざした取り組みは、大きなインパクトを生む

以前の私は、“本音は恥ずかしいし不要だ”という観念を持っているビジネスマンで、ついカッコつけて、本音を隠して冷静に処理することを重要視していました。

しかし、コーチングを通して「誰かの“やりたい”を応援したい」という、一番大事な気持ちに気づけたからこそ、大胆な経営方針の刷新にも取り組むことができました。嘘偽りない気持ちから生まれたその取り組みは、普段の合理的な考えで導き出された施策とは比べ物にならないくらい、大きな経営上のインパクトを生み出してくれました

一連の出来事を通して気付いたのは、過去の自分が、会社に自信を持てていなかったということ。給料や福利厚生によって、メンバーをなんとか引き止めているのだと思い込んでいました。しかし、今のイキイキと働くメンバーたちを見ると、お互いの本音に何かしら共感し合って働いているのだと思えて、なんだか心が軽くなるんです

いま私の中には、大事なことに集中できているこの会社ならば、きっと想像もしない未来を実現していけるという確信が芽生えています。引き続き、感情と合理の両方を大事にできる経営を追求していきたいと思っています。

[取材構成編集・文] 水玉綾、林将寛、佐藤史紹  [撮影] 戸谷信博

Beingは、
ひたむきに生きるビジネスパーソンが打ち明けた、
純粋な願いたちを集めました。

人として、組織として、社会として、
本当はどう在りたいか。

組織と事業の成長、取り巻く環境変化のなかで
ときに矛盾や葛藤、経済合理性にもがきながら
彼らがBeing-在り方-を磨いてきた過程とは。

ここでしか語られることのない
飾らない言葉たちを分かち合います。

さあ、本当の願いからはじめよう。

メディア「Being」は
ひたむきに生きるビジネスパーソンが打ち明けた、
純粋な願いたちを集めました。

人として、組織として、社会として、
本当はどう在りたいか。

組織と事業の成長、取り巻く環境変化のなかで
ときに矛盾や葛藤、経済合理性にもがきながら
彼らがBeing-在り方-を磨いてきた過程とは。

ここでしか語られることのない
飾らない言葉たちを分かち合います。

さあ、本当の願いからはじめよう。