ZaPASSで活躍するコーチに、コーチになったきっかけやコーチングへの想いを聞く連載。今回は、松本亜樹子さんのインタビューです。松本亜樹子(本名・杉嶋奈津子)|コーチ元フリーアナウンサー。モデル、司会、ファシリテーションなど、シナリオに即興を織り交ぜるライブな場づくりのプロフェッショナルとして、 1000件以上のイベントを成功に導く。プライベートでは、不妊治療の経験をもとに友人と共著で本を出版。2004年、NPO法人Fine(〜現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会〜)を設立。2008年にコーチングを学び始め、2010年、プロコーチの活動を始める。2022年11月までに5つのコーチング資格を取得。NPO法人としての活動では、国内外の政府・学会・ビジネス界から認められ、表彰を受ける。2022年、第73回保健文化賞を受賞。天皇皇后両陛下に拝謁の機会を持つ。「ありがとう」をモチベーションにしない。充足感を自給自足できる人を育成するため、コーチングを学ぶ――コーチングを学び始めたきっかけを教えてください。仲間と立ち上げたNPO法人で、マネジメントに悩みを抱えていました。人材育成とチームビルディングに行きづまりを感じていて。そんなとき、コーチングを学び始めました。2004年、私自身の不妊治療の体験をきっかけに、NPO法人Fine(〜現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会〜)を設立し、理事長に就任。常時100人以上をマネジメントするなかで、良かれと思った言動でボランティアが辞めてしまうことが幾度かあり、コーチングが打開策になるのではと思ったんです。NPOに参加してくれる方のベースには、自分が不妊で辛い思いをしたから、誰かの役に立ちたいという自己体験があります。でも、ボランティアは「誰かのために」と思っている時点で、モチベーションの維持が難しくなります。相手から「ありがとう」という言葉などの見返りがないとだんだん満たされなくなってしまう。見返りに左右されず、自分で自給自足できる人にならないと。そこで、コーチングをNPOのマネジメントに応用し、自分で自分を認め、モチベートできるようになるワークショップや1on1を行いました。誰かに感謝してもらうのをやりがいにするのではなく、自分が嬉しくなる何かを見つけてもらうためです。コーチングを取り入れたマネジメントのおかげで、ボランティアのモチベーションはあがり、自走できる人が増え、長くNPOに携わってもらえる仕組みに変わっていきました。プロコーチとして活動を始めたのは、NPOでメンバーの変化に手ごたえを感じた、2010年ころからでした。弱みをさらけ出すことで、強みを活かしあえる関係を築く――松本コーチが思うコーチングの価値とは、どのようなものでしょうか?自分自身の内面に向き合い、弱い自分にもOKを出せる。まるごと自分を認められ、それによって、周りとのコミュニケーションを大きく変化させられることです。私は弱いところを人に見せられない、見せたくないと強く思っていました。小さいときから、長女として、「しっかりしなきゃ」という思いに駆られていました。妹は身体が弱くて、泣き虫。両親は心配し、自然と妹を構うことのほうが多くなっていました。一方、私は「お姉ちゃんはしっかりしていてすごいね」と褒められるので、しっかりしてみせたい、と頑張るようになっていきました。弱音を吐いてはいけない、泣き言を言ってはいけない。そんなものは存在しないと思い込み、弱い自分に蓋をしていました。でも、コーチングを学ぶなかで、少しずつ、ダメな自分でも愛してもらえると気づきました。自己信頼、自分の基盤――コーチング的には「ファウンデーション」と呼ぶのですが、そういった私自身の土台が少しずつ整っていったように思います。ー弱い自分も認められるようになったんですね。松本さんの変化によって、周りはどのように変わりましたか?私自身がダメな自分もまるごと認められるようになることで、それまで張り詰めていたものがふっと緩み、いい意味で在り方に「ゆるさ」が出てきたみたいで。そうすると、メンバーも「弱い自分も居ていい」と思えるようになり、それぞれが自分らしく強みを発揮してくれるようになりました。みんな以前より生き生きと働いていると感じます。コーチとしてリーダーの立場の方々へセッションを提供することもありますが、私と同じ課題をお持ちの方は多いです。自信がなかったり、自分自身の弱みを出せず、苦しんでいたり。だから、クライアントに対しても、「あなたがオールマイティである必要はない。弱みを認め、強みの貸し借りができる組織になればいいのでは?」とお伝えすることもあります。そのままの自分でいられることで、自分も周りも楽になり、自分らしさを輝かせられるようになる。強みを掛け算できている組織は強いですよ。コーチングのセッションでは、コーチとしてカッコつけなくなりましたね。弱い自分を認められないときは、いい質問、鋭いフィードバックをしようと頭を働かせていました。でも今は、ありのままの自分で、ありのままのクライアントを承認し、受け止められるようになったんです。プライベートでは、コーチングを学んで、家族とのコミュニケーションが円滑になりました。以前の私は、話す人、説得する人でした。今は、聞く人になり、話しやすくなったと言ってもらえます。自分の弱みを認め、まるごと自分にOKを出す。そうすることで、まわりも自分の弱さを認められる。強みを活かしあう関係を築けることがコーチングの価値だと思います。クライアントには失敗する権利がある。転ぶ機会を奪わず、全力でただそこに「在る」ーコーチとして大切にしていることはなんですか?人としての在り方を大切にしています。絶対にクライアントの力になる、と強い思いを持ちつつ、コーチとしてまるごとその人を受け入れ、ただそこに「在る」ことに重きをおいています。もともと、コーチングはスキルであり、Doing(何をするか)だと思っていました。でも、あることをきっかけに、コーチングはBeing(どう在るか、在り方)だと気づいたんです。コーチングの学び合いの場で、相互セッションを行ったときのことです。クライアント役の方は、とても深い悩みを話されました。普段からコーチをつけられており、その話題は何度もセッションで取り上げられていました。私がどんな質問、どんなフィードバックをしても、「それについては何度も考えています」と言われて⋯⋯。何一つ打開策を見出だせず、何もできなかったんです。放心して、長い距離を歩いて帰ったことは、今でも忘れられません。コーチを辞めるべきかと思うほど、ものすごく落ち込みました。翌日、相手の方と再びお会いしたときに、セッションのフィードバックをいただく機会があって。驚くことに、私は何の役にも立たなかったのに、「コーチとして、そばにいてくれようとした姿に救われた」と言ってもらえたんです。目から鱗が落ち、人前にも関わらず、ボロボロ泣きました。コーチってそういうことなんだ。コーチとしてそばに「在る」ことがどれだけ尊いことなんだろう、とようやく気がついた瞬間でした。私が考えるコーチとしてのBeingは、クライアントのために、なんでもしてあげることではありません。私はもともとお節介なので、すぐに何かしてあげたくなってしまいます。でも、コーチングセッションでは、お節介がマイナスにも働きます。「クライアントには、失敗する権利がある。クライアントが転ぶ権利をコーチが横取りしてはいけない」先輩コーチに言われた一言です。クライアントの力になろうと思うあまり、先回りして解決しようとしたら、ふっと離れ、線を引くように気をつけています。今は、クライアントがちゃんと転ぶことで結果としてより深い変化が起き、ゴールへの到達も早くなるということも分かってきました。クライアント自身が考え、行動する。そのとき、コーチとして、全力で共に「在る」ことを大切にしています。コーチングを広め、自分を認められる人を増やすために――松本さんが描く理想のコーチ像を教えてください。私がそうしてもらったように、弱みも強みもまるごと認めるコーチが理想です。自分をさらけ出すこと、自分自身と向き合うことは、とても怖いことだと思います。でもその過程は、より自身を輝かせて生きていくために必要なもの。時間がかかっても、クライアントが自分を信じる力を高めていけるような、そんな関わりができるコーチで在り続けたいです。自分を信じる力は、自分をないがしろにせず、やろうと決めた小さな自分との約束を守ることで育まれます。たとえば、1日1分間の瞑想を習慣にするのでもいい。その小さな小さな積み重ねこそ、弱さをまるごと受け止め、自分にOKを出せる根っこになっていきます。そこから始まるクライアントの人生に寄り添う存在でありたいです。自信がもてず悩んでいる若い方はもちろん、育成に困っているリーダーにも、自分自身を認めるところからやってもらいたいですね。自分を認めることで、大きな変化が起きていきます。――松本さんは、今後どのようなことを実現したいですか?コーチングを社会のインフラにしていきたいです。「人の悩みの大半はコミュニケーション」という言葉があるほど、多くの人はコミュニケーションに悩んでいます。私も同じように悩んでいましたが、先にお話ししたようにコーチングを学ぶことで在り方が変わり、仕事でもプライベートでも、より良いコミュニケーションが取れるように変わりました。コーチングを知ることで解決できることはたくさんあるのに、日本ではまだまだ普及していません。コーチングを多くの人が知り、より広まっていけば、職場でも学校でも家庭でも、より良いコミュニケーションが生まれます。お互いを認め合えると、ありのままの自分にOKを出せる人も増え、健やかに成長できると信じています。そのために、一般の人が気軽に参加できる講座やワークショップも開いていけたらと考えています。自己信頼、自分の基盤に触れていただける場を作っていきたいですね。[文]平谷愛 [編集]青木まりな [撮影] 伊藤圭※撮影場所:NagatachoGRiD