ZaPASSで活躍するコーチに、コーチになったきっかけやコーチングへの想いを聞く連載。今回は、田中あゆみさんのインタビューです。田中 あゆみ|プロフェッショナルコーチNY州Nazareth college卒業後、日英通訳者として活動。事業後継者として株式会社ユー花園入社、取締役副社長を務める。メンバー育成等マネジメント課題に悩みコーチ・エイにてコーチング、グロービス経営大学院にて MBAを取得。経営学を学ぶも「人財」が経営にとってキーリソースであると確信し、強みによる能力開発を目指し米国ギャラップ社認定ストレングスコーチ、NLPを通して人間理解の学習を継続中。初めてのマネジメント。多くの“犠牲者”を出して辿り着いた、コーチングの存在――田中さんがコーチになった理由をおしえてください。理想やゴールを描いて、人の力を引き出すのが好きだからです。もともと通訳の仕事をしていた私がコーチングに出会ったのは、家業であるユー花園に入社し、初めてマネジメントをするようになった頃のことです。私なりに頑張ってメンバーをまとめようとするものの、どうしたらいいのかわからない。いい結果を出そうと指示しているつもりがメンバーを疲弊させ、自信を失わせてしまうばかりで。退職する方から、「みんながあなたと同じような速さで考えられるわけではないし、同じようにはできません!」と不満をぶつけられたこともあります。会社のため、メンバーのための行動が、全て裏目に出ていました。「何かがおかしい…なんとかしたい」。そう悩んでいたとき、コーチ・エィのビジネス書を手に取る機会があり、コーチングと出会いました。ピンと来た私は、コーチ・エィの講座で学び始めたんです。コーチングの考え方は、自分に「フィットする」感覚でした。傾聴したり、その人自身の考えを引き出したりするのは、自身が海外の大学で学んでいたときの、教授の学生への接し方に近いものを感じて。マネジメントも、こういう考えをベースにやればいいんだなと気づけました。そこから、自分のマネジメントや、関係の築き方が変わりました。以前と比較して、メンバーも自分の考えを伝えてくれるようになり、生き生き働いている姿も見られるように。同時に、「コーチングって面白い!」「私と同じような経験をしている人に届けたい」という思いが芽生えました。ある意味でおせっかいなんですよね。人は成長するきっかけや気付きさえあれば、誰もがすごい力を発揮できる。そしたら、もう「関わらずにはいられない」という感覚になって。コーチングをマネジメントに応用するだけではなく、プロとしてセッションを提供するようになりました。これは最近気付いたのですが、私はコーチとしても経営者としても、クライアントが望む姿を共に描き、何ができるのかを考え、実現に向けて動いていく、ということをずっとやっているんです。経営者としてプレゼンしているときも、コーチとしてセッションしているときも根本は一緒。やっていて全然疲れないし、むしろ楽しい。「副社長の仕事だけでも忙しいはずなのに、なぜコーチもしているんですか?」なんて聞かれることもありますが、やらずにはいられないんです。きっと、これが私にとっての生きがいなんでしょう。先入観をほどいて視野を広げ、目標の一歩先まで背中を押す――田中さんの感じるコーチングの価値を教えてください。コーチを付ける方って、「何かに挑戦したい」「成長したい」あるいは「変わりたい」と思っているケースがほとんどですよね。そういったタイミングで、先入観をほどいて視野を広げたり、承認・応援したりしてくれる伴走者であることが、コーチングの価値だと思います。やはり何かを成し遂げるには、一人きりよりも誰かが側にいたほうが心強いですからね。誰にでも考え方の癖はありますが、そんな無意識にかけているメガネ――「こうしなければいけない」といった先入観を外して、視野を広げて別の視点を提供すること。それがコーチングの大きな価値の一つだと考えています。また、挑戦しているときはうまくいかないことがつきもの。自信が削がれて、前に進む活力を失ったとき、コーチは「あのときこんなことできたじゃない」とこれまでの努力を承認し、味方になってくれる存在でもあります。困難にぶつかったら過去に乗り越えてきたことを一緒に点検し、そのときの努力やハードルの高さを確認する。そこから「そうそう、大変だよね」と共感だけで終わるのではなく、「今回もいけるよ!」と一歩先の目標まで見据えさせる。その背中を押す行為も、コーチの重要な役割です。無意識にある「踏み込みたくないもの」にこそ前に進むヒントがあるから、逃さずとらえていく――コーチとして、大切にしていることを教えてください。まだ言葉になっていない、奥底にあるものをとらえることです。セッションの際、クライアントは様々なことを話してくれます。けれど無意識か意識的にか、他人に踏み込まれたくない領域は避け、表面だけ取り繕って会話が進んでしまうこともあります。そういった部分を見逃さないで「あなたが本当に話したいことはなんですか?」「言いたいことは全て言えていますか?」と、問いをたてていく姿勢が大切だと考えています。まさに私がそのタイプでした。自分では気付いていなかったのですが、無意識に取り繕ってしまうときがあって。コーチを頼んでいる側なのに、「かっこいい私を演じたい、恥ずかしい部分を見せたくない」という気持ちがあったんです。それを当時のコーチにズバリと見抜かれました。先ほどもお話しした初めてメンバーを持った頃のことですが、コーチングを学んでメンバーへの接し方が変わったのも大きな要素でしたが、実は自分の内面の変化と影響が大きかったんです。マネジメントが上手くいかなかった私は、どうすれば部下が変わってくれるのか知りたくてコーチングを受けていました。きっと、できるだけ自分の良い面だけを話そうとしていたんでしょうね。でも、コーチは「本当は何が問題だと思っていますか?」と問いかけてきて。それまでは仕事が上手く進まないメンバーに対して、「なんでできないの」と矢印が向いていた。けれど、メンバーが実力を発揮できない原因は私自身にあるんじゃないかという考えが浮かんできて。私は元々、「優秀でなければならない」「人よりも働かなくてはならない」という思い込みを強く持っていました。「この程度じゃダメ。もっと頑張らないと評価なんてされない」と。そして、自分を縛っていた思い込み(価値観)の矢印の矛先を、部下にも向けてしまっていました。「もっとできるでしょ」「努力が足りないでしょ」と。けれども、コーチに「その思い込みって本当ですか?」と問われたとき、自分の視野が開けた感じがして。誰に求められたわけでもないのに、自分で自分を追い詰めていたことに気付き、先入観のメガネが外れました。私の表面的な言葉に惑わされず、奥底にある私を縛っていたものにアクセスできる問いをくれたコーチに感謝しています。だからこそ、私もクライアントに対し一歩踏み込み、本人が気付いていない部分や無意識に避けようとしている部分もとらえられるコーチでありたいと考えています。経営者やマネジメント層が元気になれば、その周囲も必ず明るくなる。――田中さんの今後の展望を教えてください。私自身、マネージャーや経営者としての難しさを体感してきたからこそ、経営層やマネジメント層が自身の強みを知り、前を向けるようサポートしたいです。その手法のひとつとして、「ストレングス・ファインダー(※)」を用いるストレングス・コーチングを取り入れています。※アメリカのギャラップ社が提唱する、自分の強みを客観的に知るためのツールのこと。「活発性」「分析思考」など34個に分類された資質のうち、どの方面に優れているかを診断する。ストレングス・ファインダーを用いたワークショップを何度か主催しているのですが、その度に参加者の方々の表情がみるみる変わっていくのを目の当たりにしました。管理職であるミドル層の方々って、普段は自分の立場とか部下とか会社の目標とか色々背負っていて、常に気を張っている状態。そんな人たちが、ジャケットを脱いでネクタイを緩めて、前のめりにワークに参加して「自分にはこういう強みがあった」と本当に楽しそうに話すんです。その人が持っている強みにフォーカスを当てることで、経営者やマネージャーといった無意識に付けている役割の仮面を脱いでもらい、本来の力を引き出せる。役割に縛られず、周囲や会社からの評価に囚われることもなく、「自分がなれる最高の自分」を見つけ、進んでいく伴走者になりたいです。経営者やマネジメント層が活き活きすれば、その周辺の人々も明るくなります。社長が自信を持って輝けば、その気持ちは同じ組織のメンバーにも伝わるものです。影響力が強い人たちだからこそ、強みを生かして進んでいけるよう支援したいですね。[取材・文]山﨑浩司 [編集]青木まりな [撮影] 伊藤圭※撮影場所:NagatachoGRiD