ZaPASSで活躍するコーチに、コーチになったきっかけやコーチングへの想いを聞く連載。今回は、児玉千織さんのインタビューです。児玉千織|プロフェッショナルコーチ早稲田大学政治経済学部を卒業後、損害保険会社にて法人営業、リンクアンドモチベーションにてコンサルティング、CSKホールディングス(現SCSK)にてグループ全体の人材開発・組織開発に従事した後、出産を機に4年間の専業主婦を経て独立。コーチとして、企業に対する組織開発のコンサルタントとして、一人ひとりに伴走しながら「人生の多くの時間を費やす仕事の場が、より楽しく自分らしく活躍できる機会」となるよう支援を行っている。米国NLP協会™認定 NLPマスタープラクティショナー、コーチングプラットフォーム認定コーチ、(株)ToBeingsコンサルタント一人ひとりの人生や価値観を知って寄り添いたい。苦しい状況の中で生まれた想い――児玉さんがコーチになった理由を教えてください。コンサルタントとして組織開発に携わる中で、一人ひとりの人生や価値観についてより深く知り、寄り添う必要があると感じたのが、コーチングを本格的に始めるきっかけでした。組織開発の支援にあたって、様々な企業のプロジェクトの会議に参加させていただくのですが、すごくもどかしいというか、難しさを感じていたんです。ファシリテーションをしていても、お互いに言いたいことを言えていないのが見えたり、もしくはその逆で互いの主張がぶつかり合って平行線を辿っていたり……。メンバーの誰もが「組織を良くしたい」と思っているのに、前に進まないという葛藤をいくつも見てきました。そんなとき、「なぜこんなに言い合えない空気が流れているのだろう」「どうしてこの人はこんなに意固地になっているのかな」と考えるのですが、その答えを探るためには、一人ひとりのこれまでの経験や価値観を知る必要があります。そこで「私はもっと“人”というものを知らなければいけない」と感じたんです。色んな人の深い価値観や背景、大事にしている想いを知らないと、ぶつかり合う人々の間に何が起こっているのかの仮説すら立てられない。チーム全体へのアプローチだけではなく、一人ひとりへの深い理解が何よりも大切だなと。より多くの人と話し、深く関わって個々人の人生や価値観を知りたい。そこからさらに、「もっと個人に寄り添い、伴走する仕事がしたい」と思うようになり、コーチングを学び始め、現在は組織開発コンサルタントに加えて、プロコーチとしても活動しています。「聴いてもらう」って力になる。本人が気づいていない本当の自分を取り戻し、その人らしく生きるために――児玉さんにとって、コーチングの価値とはなんですか?自分を縛っていた何かから離れて、自然体に近づけること。それに伴って、視野や可能性を広げられることが、コーチングの価値だと思います。人は誰しも、どこかに「自分なんか」という自信のなさを持っています。自分のダメな部分って、自分からはよく見えますから。周りの人はこんなに素敵なのに、私はこんなに劣っている、という風に見えがちです。ただ、その刃をいつまでも自分に向けていると、本来持っている良い点をのびのびと発揮できません。自分にとっては嫌な「ダメなところ」「弱いところ」を隠し、「こんな人であるべき」という像に近づこうとしてしまう。なんだかちぐはぐな在り方になってしまうんですよね。そんな人に私が伝えたいのは、「誰でも大なり小なり色々な自分があるのが当たり前」ということ。ダメなところをゼロにして、表面的に見栄えの良いところだけの人間になろうとしても、なれない。むしろ自分にとっての弱みは人から見たら魅力や強みだったりするし、色々な面があるのが当たり前です。自分の様々な面を受け入れられるようになると、肩の力が抜けて、自分なりの「自然体」で居られるようになり、より自分らしく活き活きと過ごしていけるようになります。結果として、その人自身の可能性も拓けていくと思うんです。――どうすれば、自分にとってダメだと感じる部分も受け止め、自然体に近づけるのでしょうか?コーチングのコアでもある「聴いてもらう」ことが、自然体に近づくための一助になるんじゃないかと思っています。自信がない部分やあまり向き合いたくない嫌いな部分も含めて、コーチに問われながら、自分のことを率直に話してみる。繰り返し口に出し、コーチと分かち合っていくことで少しずつ怖く無くなって、客観的に手にとって眺められるようになって、「ああ、これが私なんだな」と一つひとつその人自身に戻っていく。そのプロセスをコーチとともに歩むことで、変化が起きていくのかなと。私は、「聴いてもらう」ってすごく力になると思っていて。原体験は、私と母の関係なのですが、母はとにかく話をよく聴いてくれる人でした。学校から帰ってから、楽しいことも、悩んだり葛藤していることもなんでも話して、時に問いかけてもらうことで、自ずと自分らしい道を進んで来られたなという感覚があったんです。さらに、出産を機に4年ほど専業主婦をしていた時期に、自分が聴く側の立場で印象的な経験をしました。専業主婦の方、子育てしながら働いている方、色んな方と出会いましたが、どのような立場であっても彼女たちはそれぞれ、葛藤や不安を抱えていて。パートナーとの関係性や社会からの見られ方、会社での立ち位置などに悩み、自信を失っている人も少なくなかったように思います。そんな方々の悩みをじっくり聴くと、「聴いてもらうだけでスッキリした!」とお礼を言われることが多くて。そのときに、「聴くってすごいんだな」と実感しました。誰かに話を聴いてもらうだけで元気が出ますし、さらに「こんなところが素敵だなぁと感じたよ」とフィードバックすると、ご自身が忘れかけていた本来の良さを再確認して、「前向きになれた」と言ってくれて。とはいえ、掛け値無しで何でも話せる相手って、意外と周囲にいないですよね。同僚や友人だと利害関係が働くこともありますし、家族にだって言えないことがある。だからこそ、コーチという第三者に遠慮なく話すことが大事。いろんな自分をセッションの場に出し、そこに在るものとして認識しながら、自分だけじゃなくコーチの視点でも見てもらう。そうすることで、自分の魅力に気付き、よりあるがままの自然体に近づいていけるんじゃないでしょうか。本人が気付いていない「自然体のその人らしさの原石」を伝え、再認識してもらう――コーチとして、大切にしていることを教えてください。1つは、私自身が自然体を保つことです。クライアントの思考をきれいに整理しよう、分かりやすくフィードバックしよう、なんて意気込むと、不自然になっちゃう(苦笑)。そうやって私が不自然になると、クライアントも構えてしまうんですよね。でも、コーチングの場では何をさらけ出しても大丈夫ですし、ダメな自分にクヨクヨしてもいいんです。きれいにまとめて言葉にできなくていい。感情が昂ぶって頭がぐちゃぐちゃになってもいい。お互いに「自分を良く見せよう」という気持ちを捨てられるよう、自然体でいることを心掛けています。2つ目は、クライアントの呼吸や身体の強張りといった、フィジカル面にも意識を払うこと。「今一瞬表情が固まったように見えましたが、どんなことを感じましたか?」という具合に、身体から発せられるシグナルも参考にします。少し抽象的な例えになりますが、自然体になれたときって、心と身体が繋がる感覚があるんですよね。そんなときは、自分から出てくる言葉にも納得感がある。逆になぜかしっくりこないときは、そこがずれているので、思考だけでなく身体に目を向けると、違和感の根源にたどり着けることもあります。3つ目は、クライアント自身が気付いていない「自分らしさの原石」を見つけてお伝えすることです。自分が持つ才能や能力に自覚的な人って本当に少なくて、例えるなら「私が持ってるものなんて、ただの石ころですよ」なんて疎かに扱っている。でも、私から見たらキラキラ輝いているなんてことがよくあるんです。そういった方たちに、「いいえ。それは石ころではなく、大切なあなたらしさの原石ですよ」と伝えるよう、意識しています。以前伴走させていただいたクライアントの中間管理職の方は、初めて会った頃は自分からはあまり話されず、「自分に長所なんて無いですよ」なんてうつむきがちでした。ですが、話を聞いていくと「会社の目標の達成に向けて最短距離を考えて、愚直にやり続けることくらいはできます」なんて言うんです。これってすごい長所ですよね?この目標は正しいのか、と迷ってしまったり、時にモチベーションが下がってやり続けられなかったりすることもあるものなのに。でもご本人は、そんなのサラリーマンとして当たり前だと思っていて。むしろ、飛び道具的なアイデアをゼロから生み出せる人に憧れがあって、そうでない自分に残念さを感じていたんです。だから、「目標に対して愚直に行動できるだけでもすごいのに、さらに、ちゃんと最短距離を導き出せるなんて、間違いなく才能ですよ」と、率直にお伝えしました。そしたらその方もハッとしたみたいで。石ころだと思っていたものを大切な宝石として認識し、活かす行動を取れるようになっていった。これまで反りが合わなかった上司との関係性も変わっていって、「成果への最短距離を考える」という才能を発揮し、上司や他部署のマネージャーを巻き込みながら戦略を立て、自信を持って率先してアクションされるようになりました。その後のコーチングでも、毎回ご自身のアクションを振り返りながら、ずっと考えたこと、感じたことを率直にお話ししてくださるんです。実践してきたことを振り返って内省し、そこから見えてきたことを言語化し、さらに次のアクションに繋げて、のサイクルがぐるぐると回って、本当に活き活きとされているんですよ。たった1年で人はこんなに変われるのだと、むしろ私が沢山勇気づけられた気がします。「聴くこと」によって戦うエネルギーを充填させるコーチでありたい――今後の展望を教えてください。私はこれまで、様々な企業の組織開発や変革に携わってきました。そこで感じたのは、30〜40代の管理職の方や、スタートアップで事業を作り上げようとしている方の多くは、想いを持ってエネルギッシュに駆け抜けているということ。その一方で、抱えている荷物を下ろす場所がほとんどないということでした。プロコーチの道を選んだ背景には、そういった人たちを支えたいという想いも強くあります。鎧を脱ぎ、抱えているものを口に出し、第三者であるコーチとともに現状を見つめる。そんな自然体で在れる時間を持つことで、もう一度駆け出していくエネルギーを充填してもらいたいと考えています。人は、本来の自分の魅力を取り戻せたら大きく変われる可能性があると思っています。そんな事例をいくつも見てきました。そんな方たちは、以前から自分にあったけれど見過ごしてきてしまった自分らしさの原石をもう一度大切に持ち直すことで、決まってみんな活き活きと元気になるんです。そんな風に自分だけが持つ「自分らしさ」に気付き、活き活きと自分の人生を歩んでほしい。時にはダメな自分に出会うこともありますが、それも全て自分の一部であると自然体で受け容れられる世界になれば理想だなと思います。その理想に向けて、私は周囲の人たちを「聴くこと」で応援していきたいですね。[取材]大門史果 [文]山﨑浩司 [編集]青木まりな [撮影] 伊藤圭※撮影場所:NagatachoGRiD