ZaPASSで活躍するコーチに、コーチになったきっかけやコーチングへの想いを聞く連載。今回は、寺田一子さんのインタビューです。寺田一子|プロフェッショナルコーチ上智大学を卒業後、日本生命相互保険会社、株式会社キャリアデザインセンターにて営業職に従事し、プレイングマネージャーとして部下育成も経験。その後、株式会社コーチ・エィ(旧コーチ・トゥエンティワン)にて企業への組織開発型コーチング導入や組織変革を担当。2019年に株式会社ビザスクに入社し、新規事業の伴走支援に従事。現在は独立し、組織の中で輝く人をふやすためにコーチングを提供。国際コーチ連盟認定プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチの資格を保有。プライベートでは、小学3年生の息子と5歳(年中)の双子の娘の母。コーチングとの出会いで気づいたマネジメントへの違和感。もっと違うやり方があるのかもしれない――寺田さんがコーチになった理由を教えてください。人の「やりたいこと」「想い」から生まれる行動を支援したい、という気持ちから、コーチになりました。コーチングに出会ったのは、『コーチングが人を活かす』という本を読んだのがきっかけです。そのころは世間でコーチングが流行りだしたタイミングで、私はプレイングマネージャーとして部下を指導していました。ただ、これまでの私の上手くいったやり方を教えても、なかなか成果がでなくて。「なぜ彼らはできないのだろう?」と悩んでいました。当時の私のマネジメントスタイルは、決して褒められたものではなかったと思います。部下の想いややりたいこと、モチベーションの源泉は置き去りにして、「目標達成のために何をするか?させるか?」ばかり考えていた。自分もそうされてきたし、「マネージャーってそういうものでしょ」と思っていたんです。でも、本でコーチングの考え方を学んで、「もっと違うやり方があるのかもしれない」と感じました。人によって、仕事に求めるものも、心地いいコミュニケーションのとり方も違う。私が上手くいった方法が、あの人にもこの人にも合うとは限らない。会社の目標から逆算したやるべきことや自分の成功体験を押し付けるだけではなく、もう少し一人ひとりの個性を活かす方法もあるんじゃないか……。そんな想いと人生のタイミングが重なり、コーチ・エィ(旧コーチ・トゥエンティワン)に転職。コーチングを本格的に学びながら、コーチングを用いた組織変革支援などを提供するようになりました。人の「内側からあふれ出るやりたいこと」や、そこから生まれる行動を支援していきたいという想いの輪郭が明確になったのは、コーチ・エィでの企業支援に加えて、前職のビザスクでの経験も大きいです。同社では、新規事業創出の伴走支援をしていたのですが、新規事業って「こんな人にこんなサービスを届けたい!」という熱い想いがないと成功しないんだということを目の当たりにしてきました。同時に、コーチングはそういう熱を冷ますことなく、前に進んでいく支援ができるものだなと改めて思うようになって。人の中にある「もっと良いものを生み出したい」「今よりもみんなが幸せであれる組織を作りたい」「より良い自分になりたい」といった想いを引き出し、そのための行動を支援していきたい。今は独立しましたが、私がコーチとして活動している理由の根本にはこういった想いがあります。油絵を塗り重ねるようにビジョンをアップデートすることが、自分らしい生き方につながるー寺田さんが考えるコーチングの価値を教えてください。コーチングを受けることで、いま自分がどこに立っていて、どういったビジョンに向かっていきたいのかを問い続け、アップデートできる。この積み重ねによって、自身のビジョンにフォーカスした人生を生きられる点に、コーチングの価値があると思います。まずは、自分のビジョンを作ること。何をしたいのか、どう在りたいのかを考えるのがとても大事だと思っていて。さらに、ビジョンは1回作ったとしても、3日経てば3日後のビジョンが必要になるとも思っているんです。日々を過ごす中で、いろんなことを感じ、新しい視点や知識を得ますよね。それらを自分自身で、さらにコーチとともに振り返ることで、自分にとって大事なことがアップデートされていく。そうして油絵を塗り重ねるようにビジョンを上書きしてくことで、より自分が生きたい人生を歩めるようになっていくんです。コーチ・エィ在籍時に、とあるメーカーの部長さんのコーチを担当したときの話です。その方はコーチングを取り入れた組織変革に懐疑的で、「対話の時間を取ったって何も変わらないよ」とおっしゃっていました。そこからコーチングを重ね、上司としてどう在りたいかを問い続けた結果、「本当はもっと部下を信頼して任せたい」「自主性を引き出して、成長を助けたい」という想いが出てきたんですね。そんな想いに気付いてから、それまでのトップダウンで指示するやり方が少しずつ変化し、部下との1on1でも、自分の意見を伝える時間より相手の話を聴く時間が増えていって。その結果、「部下から『こういうことがやりたい!』というこれまで聴いたことがない意欲的な言葉が出てきた」と、とても感動していました。部下が意見を持っていなかったのではなく、自分が聞く耳を持っていなかったんだ、と。自分の中にあるビジョンや在りたい状態を認識することで、意識が変わり、行動も変わる。そうすると周りとの関係性も変わり、今まで見えなかったものが見えたり、新しい経験を得られたりする。それを元に、またビジョンをアップデートする。コーチと共にこのサイクルを回していくことで、ビジョンを磨き、自分にとっての理想的な生き方に近づいていけるのが、コーチングの素晴らしい価値だと思っています。クライアントを大事に想うからこそ準備を入念に。変化の瞬間を見届けたいー寺田さんがコーチとして大切にしていること教えてください。クライアントに新しい視点を提供し続けることです。そのために、コーチングの事前準備を入念に行うことも大切にしています。クライアント自身が気付いていない部分や考えていなかった点に光を当てることにコーチとの対話の価値があると思うのですが、いかにクライアントの中に「考え続けられる問い」を残せるか?を重要視していて。たとえセッションの場で答えが出なくとも、日々の中でその問いを味わい尽くすことで、ふと答えが浮かんでくる。それが、本当に在りたい姿や願いであり、クライアントの未来に繋がっていくと考えています。クライアントが今見えていないところってどこなんだろう?と考えながら、問いかける内容を考えたり、クライアントがよく使う言葉を使って質問を作って、その人になりきって答えてみたり……。同じような問いだとしても、語尾や言葉使いの違いによって、答えも変わってきます。こんな風にクライアントのことを想いながら質問を作るのは、自分にとってとても大切で幸せな時間です。ただ、入念に準備した質問リストは、セッション中には手放します。使うときもあれば、一切使わないときもある。準備は、「クライアントが自分のビジョンに向かっていくために、コーチとしてできることをすべてやろう」という、伴走者としての覚悟を体現する儀式のようなものなんです。クライアントを想いながら準備することで、より良い問いをお渡しできるのはもちろんですが、それ以上にコーチング中に余裕が生まれて、そこで起きるクライントの変化、今この瞬間に何が起こっているのかを感じ取りやすくなります。セッションの時間は常にクライアントにフォーカスし、感じたことをフィードバックし気付きを得てもらう。セッションを実りある時間にするために、入念に準備すること、そうすることでクライアントさんの変化に気付く余裕を持つことを大切にしています。個の輝きを組織のパフォーマンス向上につなげ、個人も組織も幸せになる世界へー寺田さんの今後の展望を教えてください。ありのままの幸せを体現できる人を、コーチングを通して増やしたいです。幸せって、誰かに決めてもらうものではなく、強みも弱みもわかった上で自分を抱きしめながら、自分にとっての最高の道を歩いていくことだと思うんです。だからこそ、まずは自分と向き合い、自分にとってのありのままの幸せとは何かを見つける。ここまでお話してきた「ビジョン」も、結局それが自分の幸せにつながるから大切なんだと思っています。ただ、一人では実現できない「幸せ」もたくさんありますよね。だからこそ、チームや組織があるわけで。幸せを実現をする重要な手段が、仕事や組織への貢献になる方も多いと思っています。ここで大事になるのが、自身の幸せやミッションと組織のミッションの、重なりや紐付けを見つけていくことです。企業の中で働いていると、どうしても自分のことを後回しにして、組織のミッションや目標達成に邁進しがち。でも、自分と組織のミッションと上手に紐付けることで、より納得感を持って働くことができます。また、たとえ紐付けができなかったとしても、「なぜ今、ここで働くのか」の意味づけができれば、人生と仕事への向き合い方は変わります。仕事に気持ちが入れば、成果も出やすい。そうすることで個が輝き、組織のパフォーマンス向上にもつながります。こんな風に、個人が組織に埋まるのではなく、組織があるからこそ個が引き立つのが理想だなと思っていて。個人とチームの相互作用で生まれる幸せを支援し、一人ひとりが幸せを体現しながら成果を出し、自身の人生の目標も達成していける世界へと向かっていきたいなと思います。[取材]大門史果 [文]山﨑浩司 [編集]青木まりな [撮影] 伊藤圭※撮影場所:NagatachoGRiD