2021年の2月から2年4ヶ月、月1~2回のコーチングセッションを毎月継続して実施している東京スタートアップ法律事務所 代表社員弁護士の中川 浩秀さんと根本 ディーコン 雅子コーチ。本記事は、これまでのセッションの様子を振り返り、記事化したものです。長期間にわたるコーチングだからこそ得られるものをご紹介いたします。本文中ではコーチがクライアントの情報を開示していることがありますが、守秘義務契約の前提の上、この取材に限ってクライアントから情報を開示、公開許可がでているもののみ、記事にしています。本記事は根本さんがコーチとして聞き手となり、中川さんにお話を聴く形で進行します。仕事が人生の99.9% ワーカホリックから抜け出せて楽になった根本さん ――今日は振り返りのセッションです。コーチングをスタートしたのが2021年の2月なんですよ。ちょうど2年4ヶ月ほど経過しています。なるほど。ちょっと驚きです。2年4ヶ月もの時間が経っていたんですね。根本さん ――2年4ヶ月の軌跡を考えてみると、どんなことを感じますか?目に見える形としては、経営する法律事務所が3拠点から12拠点になりました。でも、一番の変化は事務所の規模ではなく、自分の心の変化ですね。すこしずつ楽になったんです。私自身の人としてのあり方、Beingが変化してきて。それに伴って事務所が変化した気がしています。根本さん ――当時はどのような心境だったのでしょう?とにかく、全てに関して焦っていました。「1秒でも早く事業を大きくしなきゃいけない」「1円でも多く売り上げなきゃいけない」「1人でも早くよい人を採用しなきゃいけない」といった心境で。今でも多少は焦りを感じていますが、当時の生き急ぐような感覚は自分の中で緩和されてきました。もう少し余裕を持って、現実を俯瞰して見られるようになりましたね。なぜそうだったのか。考えてみると「人生に占める仕事の割合が99.9%」でした。もちろん、今でも仕事は大切です。モチベーションが下がったわけではなく、仕事への向き合い方が変わり、事業に楽に取り組めるようになった。人生の一部として捉えられるようになったんです。根本さん ――ということは、中川さんと事業との関係性に何か大きく変化が起きているのでしょうか? そうですね。仕事に依存していたところはあったのかな。当時と今を比較すると、仕事に依存する傾向がちょっとずつ弱まってきていると感じますね。根本さん ――10ヶ月くらい前、中川さんは「僕がやらないと事務所が倒産してしまう⋯⋯」と心配されておられました。最近、心配する気持ちが少なくなってきたと仰っていたのが、とても印象に残っています。徐々に心配が減り、楽になる感覚が強くなっています。変化には主に2つの要因があると思っていて。1つは外的要因で、良い新規メンバーを採用でき、既存メンバーが大きく成長したこと。もう1つは内的要因で、自分が周りに頼れるようになっていったこと。その2つの要因があり、徐々に楽になってきたと考えています。「しっかり任せられる人がいない」そう考えていたかつての自分は、ある意味、傲慢でしたね。無意識的に自分が一番優秀だと思っていたんじゃないか、と。根本さん ――中川さんが楽になっていった要因として、外的な要因もあるんですね。中川さんの内面の変化、つまり「焦り」「傲慢さ」が減ったことで、経営メンバーの方々との関係性も変わっていったのかもしれませんね。根本さん ――お話のなかで、「焦り」、「傲慢」と仰っていましたね。往々にして、自信がないと傲慢になってしまう可能性が高いですよね。自信のなさをカバーするために、自分を大きく見せようとする。中川さんのなかで焦りや傲慢な気持ちが減ってきている感覚があるんでしょうか?当時は「一番にならないと価値がない」くらいに考えていて。その気持ちが焦りを募らせていたんですよね。不思議なことに、今、焦る気持ちはほぼないんです。「一番になりたい」気持ちはまだ持っていますが、だからといって、「できてない自分に価値がない」とは、全く思わないですね。根本さん ――まさに「楽になった」。たどり着いた境地が楽なんですね。事業は社会情勢、景気にも左右されます。上手くいかないこともある。でも、一生懸命やったし、万が一、志半ばにして死んでも、それはそれかな、そんな気持ちです。経営に対する考え方もやっぱり変わってきていて。半分以上は「運でしょ」と思っているんですよ。根本さん ――今も一生懸命やってらっしゃるのは変わらないですよね。そして、「日本一になる」目標も変わっていない。目標に向かっているプロセスにいらっしゃるご自身を享受していらっしゃる。私にはそのように見えました。死にたくはないけど、万が一、死が確定しても、後悔はないですね。根本さん ――「常にやり切って生きている」そういうことでしょうか?そうですね。これからやりたいことも、たくさんありますけど。少なくとも、これまでやりたいと思ったことはやってきている。そう考えると、もはや「あれもこれもやっておけばよかった」と後悔する気持ちはないです。今の生き方が気に入っています。「自分が一番できる」 "傲慢な自分"から周りを信頼し"人を頼る自分"へ根本さん ――ご自身の「在り方」が変化した以外に、どんなことが変わりましたか?実務的な仕事をする時間が圧倒的に減りましたね。メンバーが成長してくれたおかげで、経営にリソースを割けるようになってきました。少し前までは、私自身がプレイヤーとして日々忙しく実務をこなしていたんです。だからこそ、自分が動けなくなったら、お客様からの依頼を受けられず、事務所が倒産してしまうのではないかと不安になっていて。安心してメンバーに任せられるようになったのは、コーチングをしている2年4ヶ月のなかで、最も大きい変化ですね。浮いたリソースを、事務所の成長のために使えるようになってきました。正直なところ、当時、誰も信じられなかった。現在、マネージャーとして働いているメンバーも入ったばかり。しっかり任せていける人がいなかったですし、人に任せるマインドにもなっていなかった。当時のマインドを振り返ってみると、私は傲慢だったんですよね。組織を大きくしていこうとしたときに、いくら自分が優秀でも、自分1人で走り回って、何十人も何百人も支えられない。メンバー自身が自ら動いて、組織を運営していく。ここを受け入れられるようになったと思います。マインドでは、周囲に任せられるようになったのが一番大きな変化です。自分の変化によって引き起こされたのか、優秀な人が偶然入ってきて育ったのかは、エビデンスがないので何とも言えませんが⋯⋯。結果的に、時間の使い方、会社における私の役割は明らかに変わりました。コーチングで無意識に潜む思考・バイアスに気づく 根本さん ――コーチングセッションで、中川さんは何を得られているのでしょう?「考えを整理する時間」「気づきをもらえる場」ですね。根本さんはアドバイスをくれるわけではなく、私が頭で考えていることを引き出してくれるんです。そのうえで適切な質問を投げてくれて。実際に答えを口に出してみると、様々な気づきがありました。「あれ? 今、言ったことは本当の気持ちと違うな」「この言葉が出てきちゃったけど、別に本気で思っていないかも」「普段、考えていなかったけれど、自分はこんな風に考えていたんだ!」よく知っているはずの自分のことではありますが、新しい気づき・発見をもらえています。コーチングによって自分の気持ちを引き出してもらい、思考や気持ちが整理されるんだと思います。自分でも気づいていなかった本音に気づける時間をもらっています。根本さん ――中川さんの内面にある「人やモノに対するバイアスに気づけた」と仰っていたセッションもありましたね。自分のなかにあるアンコンシャスバイアスに気づき、リセットしていく。刺激の多い経営者にとって日々必要な行いですね。バイアスのリセットを継続的に行っていくのは、本当に大切なことだと思っています。バイアスに気づいても、簡単には洗い落とせないんですよ。何度も何度も洗い続ける必要性を感じていて。コーチングでバイアスに気づき、洗い流す時間をもらえていて助かっています。根本さん ――そうですね。毎日、いろいろな出来事が起きて、その度に刺激を受けますよね。受け取ったバイアスを洗い流すために、どれだけお風呂に入るか。コーチングセッションで不要なバイアスをどんどん流してあげて、優先順位の高い仕事にフォーカスしていく。そうすると、日本一に近づいていく一歩になりますね。自分の心を大切に 子どものように自由に生きる根本さん ――バイアスが少なくなったら、中川さんはどんな風に生きられるのでしょう?これから10年後、中川さんはどうなっていたらいいと思いますか?10年後ですか。最近あんまり考えていなかった⋯⋯。人生の1つテーマとして、「自由でいたい」気持ちが強いんですよね。自分の中で無くしていきたいのは、何かに縛られる、何かに囚われる感情。「社会人ならこうあるべき」「女子ならこうすべき」などのべき論を極力排除していきたいんです。「一番になりたい」に囚われてもいけないし、執着しすぎてもいけないと思っているんですよね。10年後、もっと精神的に自由でいたいです。事務所を開設する前、コーチングを開始する前は、精神的に不自由だったのかなと思うんですよね。それこそ、自分のなかにバイアスみたいなものがたくさんあって。「絶対に成功しなきゃいけない」「自分なんてまだまだ」とか、割とあったんですけど。それがコーチングを通じて徐々に取れていき、楽になってきた。根本さん ――中川さんの思う自由は「べき論がない」「プレッシャーもない」。そんなイメージなんでしょうか?そうですね。何かを見たときに、フラットに判断できる。ジャッジしないというか。プレッシャーは、ある程度はあってもいいかな。今でもやっぱり時々ジャッジしちゃうんですよね。「こういう人って、こうなんだろうな」「こういう人って生い立ちがこうなんだろうな」とか。自分のなかで、多少根拠はあるにせよ、決めつけみたいなものがあって。自分に対しては「経営者ってこうでないと駄目だよね」と思っていたり。そういう気持ちを1個1個排除していきたいです。晩年、パブロ・ピカソが「この歳になってやっと子どもらしい絵が描けるようになった」と言ったそうです。ピカソは、子どものように、感じたことを素直に表現したいと思い、抽象画を描き始めました。自分の心を大切にして、「べき」に囚われることなく表現する。ひょっとしたら、それこそが「自由」なんじゃないかと考えたりしています。そういう意味で「自由」になれたらいいな、と思います。根本さん ――中川さんにとって、子どもに戻るってどういうことですか?偏見をもたない。今を生きる。今しか考えてない状態ですかね。娘を見ていると、「今これが食べたいから、食べる」「寝たいから寝る」と行動も思考もシンプルです。幼児なので当たり前ですが、これを食べると太ってしまうとか、今眠ると夜眠れなくなるとか、全く考えていないんです。子どもって、大人なら当たり前に知っている経験則を知らないんですよね。知らないことで、良い面もあれば悪い面もあります。良い面だけをある程度残していけたらいいなと思っています。根本さん ――良い面だけ残したら、自然に自由に考えられる思考に戻っているかもしれないですよね。そうなっているといいですね。何にも縛られない存在になりたいなと思います。とはいえ、自由に生きていても、生きていくうえで人との繋がりは無視できないですよね。自由に振舞いつつ、それでも周りの人から必要とされ、何らかの形で社会に役立っている状況が理想です。根本さん ――社会に役立ちたい想いが「日本一になりたい」に繋がるのでしょうか?「日本一になりたい」のは、目指している状態が楽しいからなんです。どうせやるんだったら、一番を目指す。「日本一」はコンパス的な位置づけですね。「一番になるためには、何をすればいいんだろう?」と考えながらやっていく。この状態が自分にしっくりきているので続けていきます。心を理解できる弁護士を増やし、日本の弁護士像をアップデートしていきたい根本さん ――"Update Japan"を法律事務所のビジョンに掲げられていますよね。"Update Japan"には、どんな想いが込められているのですか?「新しい時代の弁護士像を確立して、日本のアップデートに貢献したい」という想いです。一般に、弁護士といえば、"正義感が強い"、"専門用語を操るエリート"、"尊大な人"といったイメージだと思います。でも、私は人の気持ちがわかる、相手の気持ちに寄り添うことができる、そういう人たちが法律家になるべきだと思っているんです。独立する前から、「本当に困ってる人たちと接する弁護士のあり方って、これでいいのかな」と思っていて。弁護士に相談にくる方のなかには、心に大きな傷を抱えた方もいらっしゃいます。傷ついている方たちと接する際、弁護士は単に法律を知ってるだけの人じゃ駄目だな、と。コミュニケーションスキル以前に、相手の気持ちを慮ることが必要なんです。でも、弁護士の特性として、全員に相手の気持ちをイメージする力が備わっているかといえば、多分違うんですよね。ここを変えていき、日本に貢献したいと思っています。元々"Update Japan"は、日本における規制産業を法律家の力で変えていき、起業家が規制に縛られず、自由にビジネスできる社会を実現したい。そんな想いでしたが、問題意識が徐々に変わってきたんですよね。今、私が考える"Update Japan"は、相談者の「心を理解できる弁護士」を増やし、日本の弁護士のあり方を変えていくことです。[文]平谷愛 [編集]大久保亮佑