ZaPASSで活躍するコーチに、コーチになったきっかけやコーチングへの想いを聞く連載。今回は、中村佐恵子さんのインタビューです。中村佐恵子|コーチ人事部門のスペシャリスト。20年以上の経験があり、そのうち12年はアメリカ・イギリス・中国の外資系企業で人事部長やHRBPとして就労。採用・組織改革・社員育成・ER(特にメンタルでの休職者サポートや労働問題解決)・企業文化醸成・ITリテラシー向上など、さまざまなプロジェクトをリードし課題解決を図る。人事としてコーチングスキルの必要性を感じ、2018年にコーチ・エィでコーチングを学び始める。各企業では「従業員の話を真摯に聞き、頼りたい人と認識される」として定評がある。自分に優しくする。コーチングで自分の在り方が変化した経験――なぜコーチングを学び始められたのでしょうか?人事として多くの従業員と接するなかで、傾聴などのコーチングスキルが必須だと感じていたからです。2010年あたりからコーチングを学びたいと切に考えていました。でも、忙しい毎日のなかで、なかなか時間を取れず、気がついたら数年が経過していました。コーチングを学び始めたのは、2018年、アメリカに本社がある金融系企業で働いていたときです。当時は24時間休む暇がないほど働いていました。日中は普段の業務をこなしつつ、夜は時差があるアメリカ本国との連絡、その上、月に3回以上の海外出張⋯⋯。プライベートの時間を取るのが一番難しい時期でした。それでも「今、無理をしてでもコーチングを学ばなければ、これから先、一生学ぶ機会はない」と思い立ち、時間を作って、コーチングスクールでの学びをスタートさせたのです。――人事としてコーチングを活かすだけでなく、プロコーチになろうと考えたのはなぜですか?自身がクライアントとしてコーチングを受けたとき、コーチングがもたらすものに衝撃を受けたのが大きなきっかけです。スクールのプログラムの一環としてコーチングを受ける機会があったのですが、セッション中にコーチから、「なぜ自分に優しくできないんですか?」と問われたんです。最初は何を言われたのかよくわからなかった。私の心の辞書には、「自分に優しくする」なんて言葉はなかったからです。思えば小さいときからずっと、もっと頑張れと自分に鞭を打ってきました。子どもの頃は両親の期待に応えて優等生でいようと努力し続けていました。さらに社会人になってからも、会社からお給料をいただいている以上、高いパフォーマンスを出すのが当たり前。仕事第一で自分のことは二の次。そんな感覚で生きてきたのですよね。「自分に優しくするってどういうことなのか?」「なぜ私は自分に優しくできないのだろう?」。セッションのあとからその自問自答をずっと続けていたら、ふと「自分に優しくしてもいいのかな」と自分で自分を許す感覚が生まれてきて。その気づきを得たとき、知らない間に大粒の涙が流れていました。それからは、ライフワークバランスを求めて上司に業務量の調整をかけあったり、転職も考え始めました。コーチングを学ぶ前の私では、考えられない変化です。仕事もすべてに100点を目指すのではなく、力の入れ具合を調整して少し余裕を持てるようになりました。コーチから「なぜ自分に優しくできないのか?」と問いをもらったとき、私はあまりの忙しさに切羽詰まっていました。追い詰められているときは、俯瞰して物事をみることなんてできません。そんなときにコーチは、私の話を温かく受けとめつつ、そっと気づきを与えてくれたのです。「コーチングは内面に目を向けられるので、なくてはならないものだ!」と思い、自身もそのような気づきを届けていきたいと強く感じました。信頼の架け橋を築き、心と頭のなかにあるすべてを出せる場に――セッションで大切にしていることを教えてください。できるだけご自身のペースで、ご自身の言葉でお話しいただくことを大切にしています。セッションが始まる前には「敬語も気にせず、フランクにお話しください」とお伝えしています。時間の許すかぎり、心のうち、頭のなかにあるものを全て出してもらい、じっくりとお話を聞かせていただきたいからです。どんなことでも話していただくためには、信頼関係を築くことが重要です。ご挨拶のメールから信頼関係の構築は始まっています。言葉を選んで丁寧にメッセージを送り、「お話しさせていただくのを楽しみにしています」とお伝えしています。初回セッションでは、前半30分がお互いの自己紹介タイムです。心を開き、これまでの人生から何を学び、どんなものを身につけてきたか、コーチとして信頼していただけるよう、バックグラウンドやコーチとしての思いをお伝えしています。こういった時間を通して私の方から心を開き、信頼の架け橋をかけていきます。私がクライアントを信頼しなければ、クライアントも私を信頼しないと考えているからです。クライアントには、どのような状況で、どんな仕事をされているのかをお聞きしています。チーム全体のことで悩まれているなら、チームのこともお話しくださいね、とお伝えすることも。初回セッションの終盤には、コーチングでテーマとして扱いたいことを3〜5個を出していただき、認識を合わせてから、コーチングをスタート。同じ目的地をみながら、セッションを組み立てます。セッションが終わったら、数日以内にお話を要約したレポートをメールでお渡ししています。セッションの内容とアクションプランをまとめておくと、日常的な振り返りもしやすいのです。次のセッションでも前回話したことをすぐに思い出せて、ネクストステップに向けての話もスムーズに進む。結果として、日々忙しくしている方でも毎回のセッションがしっかりと積み重なり、着実な変化へとつなげていけます。コーチングは「自分も知らない自分」に出会い、答えを見つける時間――中村さんが考えるコーチングの価値ってなんでしょう?コーチングは「自分も気づいていない自分」を知り、答えを見つける時間、だと思います。クライアントとしてコーチングを受けると、思考が整理され、心が軽くなります。コーチングを通じて、「私はこんな風に考えていたんだ」と気づいたり、思いもよらないイメージが沸きあがってきたり。話を真摯に聴いてもらうことで、自分では見えていなかった自分や風景を客観視できるようになるのです。そうすると「そんなに生真面目に考えなくてもいいんだ」と肩の力が抜けることもあります。そうやって自分で答えを見つけて、自分の足でゴールにたどり着くのは、とても楽しいことですよ。私がコーチとして活動するのは、私が感じた価値を多くの人に届けたいから。忙しいビジネスパーソンにこそ、コーチングをおすすめします。じっくりと話を聞いてもらうことで考えが整理され次に進める感覚を広めたいですし、心の中にスッと風が吹く感覚を感じて欲しいです。――ビジネスパーソンとしてお忙しくされているなか、中村さんはなぜコーチとしても活動するのでしょうか?コーチとして、クライアントにしっかりと向き合い、サポートできること。それが私の幸福感に繋がっている気がしています。お話を聞かせていただいていると、おこがましいながらも、たくさんの方が私と似たことで悩み、苦労されているんだなと感じます。決して自身の経験から決めつけたり、アドバイスをして誘導したりすることはありませんが、経験を活かしながら思考の整理につながりそうな問いをお渡しすると、大きな気づきを得てくださることも多い。そんなとき、頭は忙しく動いていますが、心のなかでは穏やかな風が吹いているんです。本業で働いているときは、本当に目まぐるしくて一息つく時間すらないほど。ですがセッションがあるときは、セッション前に1時間かけて前回のセッションの振り返りをしたり、初回であれば、ZaPASSの担当者から共有された情報を確認しています。セッション後もセッションの振り返りやレポートの作成のために1時間ほど時間をとります。1回1時間のセッションに合計3時間を使ってクライアントにじっくりと向き合う。日常とは真逆な時間の過ごし方が、私にとって心地よい大切なものになっています。「話を聞いてもらえて嬉しかった」「前回の件はおかげさまで上手くいっています」とクライアントから感謝の言葉をいただけるとき、心が深く満たされます。この喜びに素直に従い時間を使うことは、私にとっての「自分に優しくする」方法のひとつでもあると感じています。経営層・マネジメント層の孤独に寄り添える存在になりたい ――中村さんが描く理想のコーチ像を教えてください。弱みも受け止め、さらなる一歩を踏み出す人に伴走するコーチです。人事として経営層とのやり取りも多く、プライベートでも社長やカントリーヘッドを務める方から相談を受けることが多くあります。そこで感じたのが、経営層の「孤独」でした。相談に乗るなかで、「社内ではこんな話はできない。自分の弱みを見せられないから」とみなさん一様におっしゃいます。企業のトップはこんなにも孤独なんだと知りました。長年、人事部長や人事ビジネスパートナー(HRBP)※を経験していますので、社長、カントリーヘッド、部門長などの方にコーチングを行う機会があります。この経験を活かし、社外でもエグゼクティブの方々にもコーチングを提供していきたいです。お話をじっくり聞き、次なるステップに進む伴走者になれたらと思います。また、自分自身の知見や働くことを通じて得た艱難辛苦の体験を後へ続く方へと還元していければと考えています。これまで複数の外資系企業でグローバル人事として培ってきた経験を活かし、人事ビジネスパートナーの育成にも取り組みたい。人材育成やキャリア研修も、コーチングを活かしながらチャレンジしてみたいですね。これから成長していく人たちに、自分の知見を使って育て、愛情を注ぐ。それこそが私にとって生きがいです。※人事ビジネスパートナー(HRBP)とは部門付の人事スペシャリストで、人事フィールドをほとんど網羅し、部門長やリーダー達の人事におけるパートナーとなり、問題解決や人事戦略を策定する役割。[文]平谷愛 [編集]青木まりな [撮影] 伊藤圭※撮影場所:NagatachoGRiD