日本において、2025年までに、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の3分の1)が後継者未定であるというデータ*があります。経営チームは企業成長の要であり、その育成・編成のあり方は、経営戦略の中でも非常に重要なテーマです。本記事では、次世代の経営者を育てる上で欠かせない施策の一つである「サクセッションプラン(後継者育成計画)」について、プランの設計方法から具体的な進め方までを、株式会社コスモスイニシア(旧リクルートコスモス)にて人事領域のマネジメントを担い、人事として経営人材育成に携わったご経験も豊富な、ZaPASS登録コーチで株式会社ツナグtobe 代表取締役の石川 博基さんに解説していただきました。*出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugigl/2019/191107hikitugigl03_1.pdfサクセッションプランとはサクセッションプラン(後継者育成計画)とは、企業の未来を担う「次世代の経営チーム」を長期的に育成する計画のことです。サクセッションプランを策定することは、企業の持続的な成長を支える基盤となります。適切な後継者育成を行うことで、組織の安定性を確保し、経営リスクを軽減することができます。また、企業理念やMission/Visionを実現するための未来の体制作りに他なりません。つまり、サクセッションプランは「リスクマネジメント」であると同時に、「成長戦略」でもあるのです。サクセッションプランのフレームワークサクセッションプランのシンプルなフレームワークとして、以下をご紹介させていただきます。このPDCAサイクルを継続的に実践することが、計画を成功へと導く鍵となります。【ステップ別】サクセッションプランの進め方STEP1:実施する目的の合意サクセッションプランを成功させるには、まず初めに、なぜやるのかいつまでにやるのかどんな状態を目指すのかこれらをきちんと合意しておくことが大切です。サクセッションプランの推進は、多くの場合、経営層が担います。そのため、「これらのポイントを整理するのは当然では?」と思われるかもしれません。しかし、ここには意外な落とし穴があります。サクセッションプランは、現経営チームにとって「自分が去った後の話」です。そのため、日々の事業運営や短期的な目標に比べると、どうしても優先度が下がり、コミットメントや熱量が不足してしまうことがあります。また、創業社長が推進する場合、自社への強い思い入れが影響し、後継者の選定や権限委譲が難航するケースも少なくありません。しかし、サクセッションプランの成否は、現経営チームのコミットメントにかかっています。だからこそ、プランの目的・期間・目指す状態を事前に明確に定め、関係者が納得した上で進めることが、成功への鍵となるのです。STEP2:経営チームの人材像の言語化サクセッションプランを作成する際に、多くの企業が陥る罠があります。それは、人材像を言語化する際に、今の社長や経営層をイメージして、それを言語化しようとしてしまうことです。しかし、経営に求められる人材像は、時代や内外環境の変化とともに変わるものです。現在の経営者像に囚われず、未来の企業の在り方を見据えて、フラットな視点で考えることが重要です。また、経営は決して一人で担うものではなく、経営チーム全体の力が企業を支えるという視点が欠かせません。つい「理想の社長像」を一生懸命考えてしまうケースもありますが、社長だけでは企業は成り立ちません。むしろ、「理想の経営チーム像」を言語化することが、サクセッションプランの成功につながります。特に、現経営者がカリスマ型や豪腕型であればなおさら、経営の仕組みをチームで再現可能にすることが求められます。理想の経営チーム像を描いた後は、各役割ごとに求める人材像を整理することで、より具体的なプランを策定できます。例えば、以下のような役割ごとに必要なスキルや資質を明確にすることが重要です。社長系:リーダーシップ、ビジョン策定事業系:事業戦略、イノベーション推進管理系:組織運営、財務・法務管理さらに、各タイプに特有の要件だけでなく、すべてのタイプに共通して求めるスキルや価値観、人間性を整理すると、より実践的なプランになります。STEP3:候補者の選定候補者を選定するポイントは、以下の3つです。1. 選定基準の設定STEP2で言語化した人物像を基にするのは当然ですが、実績や能力だけでなく、在り方やマインド(Being)も重要です。経営層に求められるのは、事業を推進するスキルだけではありません。難しい決断を下す場面が増えるため、視座の高さや人間性が不可欠です。そのため、「どのような価値観や思考を持つ人を経営者として迎えたいのか」 という視点も含め、選定基準を設定することが大切です。2. 根拠情報の定量化・共通認識化候補者の評価は、主観に頼らず、できるだけ定量的かつ客観的な情報に基づいて行う必要があります。そのために、サーベイやアセスメントを活用し、数値データをもとに候補者の特性を可視化しましょう。また、候補者の情報は担当役員だけでなく、経営チーム全員が理解し、共有している状態を作ることが重要です。「私、あの人のことよく知らないんだよね」といった発言が出るようでは、共通認識が不足している証拠です。経営チーム全員で候補者を育てる意識を持ち、一丸となって取り組むことが求められます。加えて、役員以外の関係者とも積極的に面談を行い、経営チームとしての熱量を高めることも大切です。候補者が経営層に適しているかどうかは、多方面からのフィードバックをもとに判断するのが理想的です。3. 候補者プールはグラデーションでOK候補者を厳選しすぎるのではなく、幅広く育成の可能性を見極める視点を持ちましょう。「次世代のリーダー候補」「その次の世代」など、段階的に候補者層を構築することで、柔軟な人材育成が可能になります。多くの企業では、「確実に経営層になれる人」だけを候補者として選ぼうとしがちですが、どんな人が将来開花するかはわかりません。大切なのは、ポテンシャルのある人材を早い段階から育成のフローに乗せ、成長の機会を提供することです。初めから入口を狭めすぎず、「可能性がある」と思ったら積極的にプールに入れる意識を持ちましょう。STEP4:育成計画の立案・実行育成すべき人材が見えてきたら、いよいよ育成計画の立案・実行に進みます。このフェーズで特に有効なのが、人材育成会議を設けることです。この会議は、評価や事業レビューとは切り離された、育成だけに集中する場です。評価を目的としない事業のレビューやKPIの議論は行わないあくまで「その人の成長」にフォーカスするできれば、期末など業績が気になるタイミングを避け、余白のある時期に行うこの場では、その人材に期待する姿(経営チームの一員としての理想像)と候補者の現在地を照らし合わせることが有効です。どの力やあり方・マインドがすでに備わっていて、どこにギャップがあるのか、それを明らかにすることで、より具体的で実行可能な育成プランを立てることができます。次世代経営人材の育成には修羅場体験が不可欠です。現実のビジネスのなかにある困難な局面――たとえば成果が出ていない事業や、利害関係が錯綜するプロジェクトをアサインし、自ら判断し乗り越える中で、視座と判断軸が育ちます。育成計画を考える際には、以下の観点を意識すると良いでしょう。強みと弱みを把握した上で、成長課題を設定し、個々に合わせたプランを考える経験を現経営チームによるアドバイスやコーチング的な関わりを通して昇華させる最終的には強みを拡大することを意識し、強みの掛け算で経営チームをつくっていく「経験学習サイクル(経験→内省→概念化→実践)」をまわすことで、実践知としての経営力が身についていくのです。STEP5:育成計画の進捗をレビューする育成計画は、立てて終わりではありません。定期的にレビューを行い、計画の軌道修正や候補者プールの見直しを図ることが、成功の鍵を握ります。レビューの際には、以下の3つのポイントを押さえると良いでしょう。1. 候補者の成長の度合いまず確認すべきは、候補者が期待通りに成長しているかどうかです。経営人材として必要な視座・判断力が身についているか修羅場や越境経験を通じて、内省と行動変容が起きているか計画通りのステップを踏み、変化や成果が現れているか経営人材に求められるのは、役職や実績だけでなく在り方(Being)や、変化に向き合う力です。育成の中で、視座や意思決定の質、リーダーシップの発揮に変化が見られるか、定期的にチェックしていきましょう。2. サクセッションプランの確認・見直しこのタイミングで、サクセッションプラン全体の妥当性を再点検することも大切です。・候補者プールの見直し加えるべき人材はいるか、現プールに偏りはないか、必要に応じて入れ替えを検討します。・育成計画の振り返り実施してきた施策が効果的だったか、本人の特性に合っていたかを振り返り、必要に応じて修正します。なお、プールから外れる人材がいたとしても、それは「経営者候補という役割」から外れるだけであり、その人が優秀であることに変わりはありません。本人に候補であることを伝えていた場合は、丁寧なフィードバックと誠実な対話を心がけましょう。3. 経営チームの意思・役割サクセッションプランは、経営陣全員が関わってこそ機能します。候補者の状況について共通認識を持ち、個人任せにせず、チームで育てる意識を持ち続けることが重要です。加えて、経営陣がすべてを均等に担う必要はありません。メンバーそれぞれの得意分野や経験を活かし、育成フェーズごとに役割分担をすることで、より効果的に候補者と向き合うことができます。経営チームとしての関与の質と設計を意識することで、育成に対する熱量と実効性を保つことができます。サクセッションプランに関するQ&AQ. サクセッションプランにおける人材プールは、全社に公開するべきでしょうか?また、公開・非公開それぞれのメリット・デメリットを教えてください。人材プールを全社に公開する企業は少数派です。公開・非公開の判断には、以下のようなメリット・デメリットがあります。全社公開のメリット:選ばれた人のモチベーションが上がる/若手の目標になりやすい全社公開のデメリット:選ばれなかった人に与える心理的インパクトが大きい一方、候補者本人には期待を伝え、育成プランを共有するのがおすすめです。育成の質を高めるためにも、会社としての意図や期待を明示することは有効です。ただし、会社の文化や人事方針によっては、候補者にも明言しないケースもあります。自社の風土に合わせて判断すると良いでしょう。まとめサクセッションプラン(後継者育成計画)は、経営人材の確保を通じて、企業の持続的成長と安定経営を支える重要な経営施策です。本記事では、サクセッションプランの基本的な考え方から、設計・実行のステップ、実務上の留意点までを解説しました。サクセッションプランは、一度策定して終わりではなく、状況に応じた更新と、経営陣による継続的な関与が不可欠です。自社の将来を見据え、計画的に次世代の経営チームを育てることが、今後の不確実な経営環境を乗り越える力となるでしょう。監修者/インタビュイープロフィール石川 博基氏:ZaPASS登録コーチ2008年名古屋大学理学部物理学科を卒業後、リクルートのDNAを軸に会社選びを行い、最も色濃いとされる(株)コスモスイニシア(旧リクルートコスモス)に入社。 仲介営業に配属後、3年連続社長賞を経て人事に異動。以降、採用、人材開発、人事制度設計、MVV策定、働き方改革など広範な人事戦略の推進と人事領域のマネジメントを担い、同社を「働きがいのある会社ランキング」や「入社して良かった会社ランキング」の上位に導く。これまでの経営・事業をドライブさせる戦略人事としての経験を活かし、2023年1月にツナグtobeを設立。現在はクライアント企業の外部CHRO的な存在として各社の人事戦略全般の策定・推進を支援している。2025年より”人事はもっと会社を面白くできる”を掲げ、経営・人事向けの「戦略人事ラボ」を運営。