歳を重ねるほど、立場や役割、過去の実績に縛られ、自由な選択がしにくくなると感じたことはありませんか?そのうち、自分は本当はどうしたいかわからない、むしろそんな意思は最初からなかったのではないかという気になってくることも。ZaPASSのプロフェッショナルコーチである垣内 優衣さんは「そんなときは『感情』にフォーカスしてほしい」と言います。自身の心の動きに素直になることが、忘れていた意思や本当にやりたいことにたどり着く第一歩になるのです。ビジネスの場であれプライベートの場であれ、基本的には常に理性的であるべき、感情は抑えるべきもの、と考えている人も多いはず。それでも感情が大切だと言うのはなぜなのか、そして感情にフォーカスするにはどうすればいいのでしょうか。垣内 優衣|プロフェッショナルコーチ上智大学を卒業後、神戸大学大学院を修了。在学中にセネガルとアメリカにてインターンを実施。組織開発のコンサルティング会社にてグローバルリーダー育成、組織創りの領域で営業、コンサルティングに従事。その後日本企業のリーダー育成と東南アジア・インドなどの新興国にある社会的企業・団体のエンパワメントに関わるNPO法人に入団。社会課題解決に向けたセクターを超えた取り組みに向けた各種プロジェクトに従事。2019年より、個人が自信を持ち、自身の考えを元にパワフルに生きる人生に伴走したいと考えライフコーチとして活動を開始。感情は、自分の内側からのメッセージ。そこに本当の意思がある――なんとなく「このままではいけない」「より良い道があるんじゃないか」と悩むタイミングって、誰しもあると思います。そんなとき、キャリアの棚卸しや自己分析などに取り組むことが多いですが、垣内さんは「感情にフォーカスするのが大事」とお考えですよね。それはなぜでしょうか?心が動く瞬間、「感情」が揺れ動く場面には、その人自身の価値観が表れるからです。人生の何かを変えたいとき、「自分の経歴ならこういう道が有利」「家庭とキャリアのバランスをとるとこれがいい」という風に考えがちですよね。でもこれは、あくまで "頭を使って、論理的に" 考えている状態であることが多い。そんなときは、「自分は何にワクワクしているのか」「自分は何に怒っているのか」などと考えてみて欲しい。それは、人生の主役である自分の幸せを考えること。“心”が何に反応しているかに意識的になることが、すなわち感情にフォーカスするということなんです。心が動くのは、何かしらの価値観に反応しているということ。そして価値観の背景には「これを大切にしたい」という意思があります。この意思にアクセスできているかどうかによって、選択への納得感や充実感が大きく変わると思うんです。――感情の動きが無いままに、論理的に新たな道を選んでも、またいつか「違ったかも」という壁にぶつかってしまうかもしれないと。そうなんです。例えば、会社やクライアントの要望に応えることは自然なことだと思います。家庭の中でも、家族が望んでいることは何かと考えて日々の行動を決めたり。でもこのとき、「全体のための最善」は考えても、意外と「自分の人生の幸せ」を置き去りにしてしまうこともあるのではないでしょうか。「心からやりたいことや在りたい状態」につながれていないことって、意外と生活の中によくあります。一方で、自分の心や感情に向き合い、納得した道を選べたとき、物事に取り組むエネルギーは倍増します。「自分はこれをやりたいんだな」と気づいた後には、もうそれを実現するしかないしそのための行動が自然とついてくる。だから、普段から自身の感情にフォーカスすることを意識してほしいと思います。価値観から生まれた意思に従うと、人はこんなに変わる――感情にフォーカスすることで、人はどんな風に変化するのでしょうか?私のクライアントさんなのですが、感情にフォーカスしていくことで、自分にとってより価値のある道を見つけられた事例を紹介しますね。その方は、自身のやりたいことを実現するために、社会人経験を経て海外大学への留学を決め、まさに留学中にコーチングセッションをさせていただいていました。当時、かなり情熱を持って留学に臨んだものの、言語の壁に阻まれて思うように前に進めず苦しんでいる状況で。「英語が得意じゃない」「そのせいで議論にスムーズに入れない」など、自分の足りないことやできないことに、気持ちや思考が向いていました。もちろん、そこで「じゃあどうやって英語のスキルを高めようか」というテーマをセッションで扱うこともできる。でもそうではなく、「本当はなにやりたいんだっけ?」に改めて向き合ったんです。そこで最初に見えてきたのは、焦りや苛立ちでした。もっとやらなきゃいけないことがあるのに、「英語が苦手」という壁に囚われて、それを超えないと次に進めないように感じ、視野が狭まっていた。同時に、焦りや苛立ちは期待や希望があるからこそ生まれている感情であり、やりたいことをやるために、英語を流暢に使いこなせることはそこまで大事ではないのではないか、ということにも気づいて。そこからさらに一歩深めて、期待や希望といった感情にフォーカスしていきました。彼女が大事にしたいもの、留学するぞと決めたときに望んでいたもの――それは、「自ら自由に動き、学びや人とのつながりを得て、色んなことを吸収していく」こと。その価値観に沿って行動できているときは、ワクワクするし、輝けると。英語も、留学先の大学で良い評価を得ることも、手段でしかない。こだわりたいのはそこじゃなくて、何を吸収するか自分で選びとり、そのために動き、実現したい未来へと進んでいくことだと気づいたんです。そのとき「これじゃん!」と、彼女も、聞いていた私も、確信めいたものを感じました。本当に在りたい状態を、改めて掴んだ感覚。言語も生活環境も異なる中で、常にどこか自信なさげだった彼女の表情がパッと明るくなって、エネルギーがあふれてくるようでした。それからの彼女のパワフルさはすごかったです。現状から何を変えていくかのアクションもするする出てきて、周囲を巻き込み、やりたいことをどんどん実現していきました。英語が苦手だからこれができない、という視点ではなく、在りたい状態にフォーカスして何をするかを決められるようになって。学びを深めるために、1ヶ月でアメリカとヨーロッパを周って、直接訪問も含めて50人に英語でインタビューしたりしたんですよ。すごい行動力ですよね。でも、これが人の本来の姿だと、私は思います。感情と向き合うことで、自分の幸せ、自分が納得できる道を見つけられると、そこに進む意思の力が湧き出てくるんですよね。“意思の種火”は消えやすい。だからこそ、風を送り込む存在でありたい――垣内さん自身のお話も聞かせてください。個人がより納得できる道を見つけるために、感情が大切だと思うようになったのはなぜですか?もともと感情で動くタイプではあったのですが、その大切さをより深く認識したのは、仕事が忙しすぎて心の抑揚を失った経験から回復したときでした。目の前のことに追われる日々が続いて、気づいたら感情が全然動かなくなっていたんですよ。そのときは会社にもいけなくなり、毎日が苦痛で、朝起きるのもしんどくて。なぜそんな状況になったのかと言うと、自分の意思を見失ってたからなんですよね。そこで、「なぜこの仕事をしているんだっけ?」といった、過去の自分が持っていた意思やその背景にあった価値観を問い直していった。その中で「ああ、私、昔は少しでも社会がよくなることに関われたらって思っていたな」と思い出して。もっと寛容に、お互いを尊重し認め合える笑顔あふれる世界になれたらって。じゃあそれをどう実現したいの?と考えたときに、人の変容に携わりたい、個人の変化が周りへ、組織へ、そして社会へと大きな波になっていく過程を見届けたい、という思いが湧き上がってきたんです。そしてその思いを実現するための道として、ある事業に携わることになり、それがコーチングを学ぶきっかけにもなりました。ずっと人や組織に携わる仕事はしていましたが、私は個人の変化によってチームや組織がエンパワーメントされた先に、社会へと波及して、さらにエネルギーが増す流れのイメージをずっと持っていて。コーチングは、起点になる個人にアプローチできる方法としてすごくしっくり来ました。今は、コーチとしてもその他の仕事でも、人の感情と、そこから生まれる変化の種火をより大きくしていく、風のような存在でありたいと思っています。――変化の種火を大きくしていく風、ですか。そうです!人が自分の意志に従って変わろうとするときって、小さな種火が生まれた状態みたいなものだと思っているんです。ただ、まだ種火だから、かき消されやすいものでもあって。既に背負っている役割などの外的要因や、自信のなさなど内的要因で、意思が生まれてもその道を選べないことも多くある。でも、意思や価値観に沿って生きる人が増えたらいいなと思っているから、変化の種火が消えないように木と木の隙間に酸素を送り込み、焚き火になって、さらに周りにもいい影響を与えるような大きな炎になっていく流れを作るお手伝いができたらと思うんです。といっても、変化の種火って必ずしも「社会を変えたい」といった壮大なものである必要はなくて、「家族関係をより良いものにしていきたい」「こんなチャレンジをしてみたい」など、身近なもので全然いい。自分の心の動きに素直に動くことがなにより大事だと思っています。心の動きに名前を付けることが、種火を見つけるヒントに繋がる――最後に、自分自身の「変化の種火」を見つけたい、そのために感情にフォーカスしてみたいと思ったとき、何から始めたらいいのか、アドバイスを教えてください。自分の感情に自覚的になるために、「感情へのラベル付け」をしてみてほしいです。例えば同じ「ドキドキする」でも、それが嬉しさやワクワクからきたのか、はたまた怒りや憤りからきたのかって違いますよね。そういうとき「未知に挑戦するドキドキ」や「理不尽を感じたドキドキ」という風に一言で表してみるんです。こうしてラベル付けしていると、自分の感情にアンテナが立ちやすくなり、どんなときに、どんな風に心が動くのか、を見つけやすくなります。日記のように記録できたら理想ですが、考えるだけでも感情への感度は変わるので、ぜひ気軽にやってみてほしいです。種火の燃え方は、本当に人それぞれ。やりたいことがわからない人も、それは今この瞬間に見えていないだけで、種火は必ず存在します。どんなに小さくても、適切に風を送ればそれは大きな炎に燃え上がっていきます。だから目の前の現実だけを見て、諦めてほしくないんです。感情に正直になったその先に、変化の種火があります。それを見つけること、燃え上がらせていくことをサポートしていけたら嬉しいです。[取材・文]山﨑浩司 [編集]青木まりな [撮影] 伊藤圭※撮影場所:NagatachoGRiD