まずは自身の感情や欲求を“許可”することから。走り続けてきた人のための、本当の願いを見つけるコーチング #荒井智子

まずは自身の感情や欲求を“許可”することから。走り続けてきた人のための、本当の願いを見つけるコーチング #荒井智子

ZaPASSで活躍するコーチに、コーチになったきっかけやコーチングへの想いを聞く連載。今回は、荒井智子さんのインタビューです。

荒井智子|コーチ
2013年、株式会社ガイアックスに入社。組織作りを担う社長室の立ち上げを経て、忙しく働く人が心身ともに疲れていくことに課題意識を持つ。健康的な手作りの食事を提供するための社内食堂プロジェクトを立ち上げ、その翌年に家庭料理カフェ&ケータリング『tiny peace kitchen』として事業化。同時に第一子を出産。子育てや介護など、どんな事情を抱えたメンバーも、やりたい仕事をやり続けられるような組織を作ることを目指している。東京大学大学院にてサステイナビリティ学の修士号を取得。2019年にZaPASS認定コーチの資格を取得。

人の悩みに寄り添う、解決する。自分のテーマと重なったコーチング

――なぜコーチングを学び始められたのでしょうか?

きっかけは、信頼している会社の同期からコーチ養成講座への参加をすすめられたことでした。「荒井さんにピッタリだと思うから」と言われて。コーチングという言葉すら知らなかったんですけどね。

ただ、小さい頃から人に相談されることが多く、人の悩みに寄り添う、解決するというところには昔からずっと興味がありました。高校生の時には部活の顧問からも相談を受けていたくらい、駆け込み寺的に人の話をよく聞いていました。その時は、将来は心理カウンセラーになりたいと思っていたくらい。

その後も、大学院でサステナビリティ学を学んでいたとき、NVC(Nonviolent Communication・非暴力コミュニケーション)というコミュニケーション方法に出会って影響を受けました。NVCは、すごくざっくり言うと「平和的で非暴力的なコミュニケーションのスキル」なのですが、よりよい社会の実現に向けた合意形成のために必要なものなんです。NVCを学ぶことでそれまでの自分の話の聞き方や解釈の仕方を振り返って、反省する部分も多くありました。NVCはいまでも大事にしているコミュニケーション方法であり、思想です。

だから、ずっと、人と人との深いコミュニケーションとか、課題を抱えている人にどうやって関わるのか、意見が衝突したときにはどうすればいいのか、といった部分に強い興味があったんだと思います。

そういった背景もあり、コーチ養成講座を受講しながら「これだ!」とハマる感覚があって。軽い気持ちで学び始めたコーチングですが、コーチ的な関わり方を身につけることは自分にとってものすごく重要なことだと感じました。

友人同士の相談とは流れる時間が違う。コーチだからこそできる関わり方

――なぜコーチングに「ハマった」のでしょうか?

「今までの自分の聞き方はもしかしたら間違っていたのでは」と気付いて、衝撃を受けたんですよね。

「よかれと思ってやっていた聞き方や共感の示し方が見当違いだったのかも」とか、「あのときの友人の悩みには、その奥に本当の願いがあったのかもしれないな」とか。「共感を示したい」という自身の欲求が先にきてしまって、100%相手の話を聞けていないこともあったかもしれない。そうやって、自分の行動を省みる中で、コーチングに惹かれていきました。

寄り添うこと、人の可能性を信じること、人を応援をすることについて改めて考えて。本当の願いも、悩みの解決法も、その人自身にしかわからない。コーチングでは、一緒に解決しようとするのではなく、あくまでも進むのはクライアント(コーチングを受ける人)で、コーチはサポートに徹します。「人との関わり方」に対する意識が大きく変わりましたね。

――荒井さんが考える、コーチングの価値ってなんでしょう?

友だちや家族に相談する、話を聞いてもらうのとはまったく違う関わり方ができるところ、ですかね。

今までいろいろな人の悩みを聞いてきましたけど、コーチとして人の話を聴いているときって、「まったく違う種類の時間が流れている」という感覚があります。

友だちとして話を聞くときは、その友だちと自分の関係性だったり、相手からどう思われるかだったりを気にしてしまうことがありますよね。よかれと思って言ったアドバイスで、逆に相手を苦しめてしまったりとか。

対してコーチは、全神経を徹底的にクライアントに集中させます。クライアントとコーチは、いい意味で利害関係のない存在。だからこそ、コーチは「相手にどう思われるか」といった自分にベクトルが向いた思考を持つことなく、クライアントに100%意識を向けられます。

表情とか声色とか、それまでの文脈との一貫性や変化なども含めて、全身で“聴く”。コーチがクライアントに対して「正しい、間違っている」といった判断をすることもないので、クライアントとしても「否定されたらどうしよう」などの心配もなく、自分のペースで話し、思考を深められる

それは本当に独特な時間ですし、コーチングでないと味わえないものなのかなと感じています。

自分自身のロックを外して、感情や欲求にアクセスできるように

――セッションのなかで大切にしていることはなんですか?

許すことのサポートです。今は20~30代のビジネスパーソンの方をコーチングする機会が多いのですが、その世代って、自分の感情は一旦どこかに置いて何が何でも頑張る修行期間になることが多いですよね。

自分の欲求や感情を抑えて、まずは会社、社会からの期待に応えようとするのは悪いことではありません。でも、そのまま走り続けていると「何かが物足りない、始めたころのように熱狂したいけれどできない」みたいな時期に突入するんです。そしてふと立ち止まり、「このまま走り続けていいんだっけ、幸せな人生になるんだっけ」と悩み始める

そういうときに必要なのが、自分の深いニーズや感情にアクセスできるようになること。ただ、いろんなものによって妨げられているんですね。「こんな風に感じちゃいけないんじゃないか」とか「こんな願いは無謀なんじゃないか」とか、「本当はこうしたい」がちらついているのに、実行するのはおろか、願うことさえも禁止してしまっている人が多いと感じています。

だから、セッションではまず、自分自身の感情や欲求を許可することに時間を割いています

心の中にあるロックを外すために、「スポットライトを当ててあげましょう」という話をよくします。自分のニーズを見つけられずにトンネルの中にいるクライアントさんの後ろから、スポットライトをいろいろな場所に当てていくイメージです。

あらゆる方向に光を当て、「こっちは進んでみたいですか?」「こっちはどうですか?」と聞いていく。すると、しっくりくる道が少しずつ見えてくるんです。

進むのを邪魔する崖や大きな石が見つかることもあります。そんなときは、それらを一緒に観察して、飛び越えられそうなのか、橋がかけられそうなのかを話していく。意外と崖や石が小さいことに気付いたり、迂回できる道が見つかったり。その過程で、自分の本当の感情を素直に感じられるようになっていきます。

自分のあり方を見つめ直したい人たちが、自身の本当の願いを見つけていく。その分岐点に立ち会えたらすごく幸せです。

目指すは食堂のおばちゃん。愛と力の両立で守りたい個の幸せ

――荒井さんが描く理想のコーチ像を教えてください。

個人の幸せを持続可能にするコーチです。

「誰かの困りごとを解決したい!」という課題解決フェチなところはずっと変わらないんですが、その課題の範囲はミクロ、マクロを経てまたミクロに戻ってきた気がしています。

中学生の時は目の前の人の課題解決に興味があったけれど、留学を経て視野が広がり、高校・大学では、個人の悩みから社会課題へと関心が移っていきました。

それで大学院でサステナビリティ学を学んだのですが、その過程でマクロへと変化した興味関心がまたミクロに戻っていったんです。サステナビリティ学の重要な問いである「何を持続させていきたいのか」を議論する中で、「私が持続したいのは、個人の幸せだ」と気づいて

社会課題は無数にあるけれど、自分が取り組んでいきたいのは人の幸せや心の充足感なんだな、と。目指したい像として、最終的に食堂のおばちゃんにたどりつきました

食堂のおばちゃんって、安心感と愛にあふれているんです。大学院の2年間は、優秀な同期に囲まれて、楽しかったけど苦しくもあった。その頃、生協のコーヒーを売っているおばちゃんとの些細な会話からすごく元気をもらっていて。「クマできてるけど大丈夫?」とか「研究発表近いんでしょ、頑張ってね」とか、毎日訪れるその3分間の安心感があったからこそ、大学院もなんとかやっていけたんだなと感じています。

みんながふと立ち寄ったときに「今日も頑張るか」と思えるような、食堂のおばちゃんが持つ安心感とエネルギーがいっぱいの場所を作りたいと思って、家庭料理のお店を作った。でも、ただ優しく受け入れるというのでは足りないもう一歩先のサポートもしたくなって。そのタイミングで出会ったのがコーチングでした。

わたしが大切にしている言葉の1つに、「愛なき力は暴力であり、力無き愛は無力である」というキング牧師の台詞があります。

ある課題に対して、感情を無視して理路整然とソリューションを提案して行動を迫るだけでは暴力だし、かといって「大丈夫大丈夫!」と食堂のおばちゃん的に気持ちに寄り添うだけでは無力なときもある。食堂のおばちゃんが持つ包みこむような愛と、コーチとしてぐっと背中を押す力の両方を持ちながら、そのバランス感を大事にしていきたいですね。

[文]大門史果 [編集]青木まりな [撮影] 伊藤圭

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