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コーチインタビュー
コーチングは人生の加速装置。自分の人生を自分で決めたい人に、バディのように寄り添う #有田直子
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ZaPASSで活躍するコーチに、コーチになったきっかけやコーチングへの想いを聞く連載。今回は、みなみゆみこさんのインタビューです。
みなみ ゆみこ|プロフェッショナルコーチ
京都芸術短期大学建築デザイン専攻(現京都造形芸術大学)、早稲田大学大学院建築学科修了。(株)博報堂にてCMプランナー・デザイナーとして6年勤務した後、ATELIER MINAMI設立。フリーランスのグラフィックデザイナー、アートディレクターとして活動する。クリエイティブ職で培った発想や直感力を生かして、2019年よりプロコーチとしても活動開始。クリエイターからビジネスパーソンまで、幅広い層にその人独自の可能性や創造性の発揮に向けたコーチングセッションを提供している。
――みなみさんはデザイナーですが、プロコーチにもなられた理由を教えてください。
私は、デザインをする上でも、クライアントさんがどういう願いを持っているのか、本当はどうしたいのか、その根底にあるものをとても大事にしているんですね。
例えばロゴを作りたいという方がいらしたら、なぜロゴを作りたいのか、その背景にある思いをたくさん伺います。そういった問いかけをジョブごとに続けていたら、クライアントさんから「自分を発見できた」「人生相談みたい」と言ってもらえることも増えてきて、それ自体が私もすごく嬉しい手応えで。
そんな中、「今日の打ち合わせ、コーチングみたいでした」と言われたことがきっかけで、コーチングに興味を持ちました。私にとってデザインの根底につながる「クライアントの本当の願い」を掘り下げることを、それまでは我流でやっていましたが、ちゃんと学ぼうと思ったんです。
スクールに通って本格的にコーチングを学んで知ったのは、「クライアントさんの可能性を信じる」ことの果てない深みです。
これまでもデザイナーとして、相手の中にある想いや願い、いわば可能性の種のようなものにずっと向き合ってきたと思います。でも、コーチングの講座の中で実践練習をしているうちに「ああ、人の可能性を信じるって生半可なことじゃないんだ」と感じて。
なんて言うか、「その人自身の中に最適な答えがある」って信じるのはもちろんなんですけど、そのさらに奥、もっと奥があるというか、私が信じきれたぶんだけ、クライアントさんの奥深くにある可能性を解放できるんだって感じたんです。
ただ、信じきると言っても、頭で信じきるのと、心からそうあるのは違って、その違いはクライアントさんにも伝わってしまう。場にあらわれるんですね。その難しさはいまだに感じますが、心から信じきった先にある関わりの価値を実感しているからこそ、今もプロコーチとしてコーチングを続けているんだと思います。
――みなみさんがセッションの中で大切にしていることは何ですか?
1つ目は、「感覚を味わうこと」です。
セッションでは、クライアントさんが大切にしたい価値観とつながったときに感じる、「自分の中で自分がしっくり来る感覚」を体感していただきたいと思っています。
人って、自分の本当の想いに近づくほど、頭より先に身体や感情がいきいきと反応するように思うんです。ただ、その反応は、普段の日常の中では見過ごしてしまいがち。
だからこそ、セッションという時間にどっぷりつかっていただいて、ご自身の大事な価値観の中にあるエネルギー感とか、「自分がしっくり来る感覚」を味わっていただきたいなと思います。それは、自己理解を深める大きなヒントになるからです。
2つ目は、「自分を取り巻くしがらみを外すこと」です。
例えば、エクゼクティブの方や高い成果をあげている方ほど、役割や周囲からの評価など、抱えるしがらみも多いのではないでしょうか。そうした「自分に与えられた役割」が際立つほど、それを切り離して自分を内観することは、難しい。役割と自分が一心同体になってしまって本来の自分がわからなくなっている方もいらっしゃるのでは、と思います。
そうしたしがらみに囚われたままセッションをしてしまうと、本来の自分じゃない、役割からくる自分の声を優先してしまいます。
私はできる限りクライアントさんが背負っているしがらみや常識を脱いでもらって、ありのままの自分で内面に深く潜れるような場をつくることを、大切にしています。
3つ目は、「型にはまったセッションをしないこと」です。
コーチングは、型どおりにやって正解を出すものではありません。だからこそ、落とし所を持たないということを大事にしています。
実は、コーチングを学ぶときに、最初に「コーチングを速習できる」スタイルのスクールに通ったんです。そこでは、型を覚えることが学びの中心で、学んだとおりにやっても応用が効かず、クライアントさんの本当の願いになかなか行き着けなかったんです。
2つ目に通ったスクールでようやく、クライアントさんの可能性を信じきる、相手のすべてに焦点をあてる、といったあり方について、体感覚を通して得た手応えがありました。そこから型ではなく、流動的な対話の場としてセッションの時間を過ごせるようになり、ようやく、その人そのものに向き合えるようになりましたね。
ただ、落とし所を持たないとしても、ちゃんと指針を握るということには気をつけています。例えば、このセッションでは感情を扱っている、新たな視点を探っている、といった指針ですね。
セッションの指針はしっかり握ったうえで、あとは大いに揺らします(笑)。クライアントさんが思いもしなかったところにいってこそ、コーチングならではの思わぬ発見につながると思っています。
――みなみさんが考える、コーチングの価値って何でしょうか?
ありのまま、しがらみのない自分の内側と向き合うことで、ご自身の根源的な願いや価値観に気付き、生き方を本質的にアップデートできることです。
例えば、「頭ごなしに部下に怒ってしまう」ということをテーマにしたクライアントさんがいらっしゃいました。
セッションでは、その怒りの感情をただ味わいきってみることにチャレンジしたんですね。今どう思ってる? 今どう感じてる? と私から繰り返し投げかけた。すると、だんだん怒りの感情が私に向いてきて。「なんで俺は、今こんなとこで、こんなことをやっているんだっ!」って。
「今そう思った感情も含めて、全部、味わいましょう」、と伝えたら、急にクライアントさんがシーンとして、自分の怒りが客観的に見えてきたと。とはいえ、そのときは何か明確な変化があったわけじゃなくて、言ってしまえば中途半端な形で終わりました。
ただ、そこから2ヶ月後くらいのセッションで、そのクライアントさんのあり方が明らかに変わってきた。以前は怒りが先立って部下の話を聞けなかったけれど、一旦その感情を抑えることができるようになって、部下との関係が変わりつつあると。上司とはかくあるべき、といったご自身の中にある思い込みがほどけたのか、自分の中にある願いに気付けたのか、とにかく変化を体感しているとおっしゃっていて。
クライアントさんって、私もびっくりするんですが、セッションとセッションの間に飛躍的にあり方が変化されることがあるんです。セッションで得た体験が引き金となって、ご自身で「本当の願い」を見つけて来られるんですよね。
その飛躍は、コーチングを受けて外側にジャンプするというより、自分の中に元々あった、軸だったり本当の願いだったりに気づいていくというイメージでしょうか。ご自身の内面をうまく扱えるようになって、主体的に行動を起こすことで、本質的に変容されていくんですね。
とはいえ、コーチングで得られる価値は、結局は人それぞれです。ただ、価値を感じるために欠かせないのが、クライアントさん自身の「現状から変化したい」という主体的な意志。それがないと、いくらコーチングを受けても効果や手応えは感じにくいと思います。自分が変わりたいと本気で感じたときに自発的に受けることで、クライアントとコーチの関係性も高まり、価値を生み出していけるんだと思います。
――みなみさんがそういった、自分の中に元々あった願いに気付くという価値を生み出せるのってなぜなんでしょう?そのクライアントさんの変化はすごいなと思いまして。
まず、私自身が自分の嫌な感情にも向き合い、受け入れることを重視しているのは大きいかもしれません。
私がクライアントとして定期的に受けているセッションでは、まさに自分の中にある受け入れたくない感情と向き合うことをテーマの一つにしています。
例えば、私は幼少期にすごく親に怒られて育ったんですね。ドジだったり鈍くさかったり、言うことも聞かないのでダメ出しばかりされていました。ただ、その割に根拠のない自信も強かったので、そのことは大人になってからは忘れて過ごしていました。
が、自分がコーチングを受けることで、実は自分の中に認められないつらさみたいなものが残っているのがわかって。だからこそ、かつて「実績を評価されたい」という思いで動いていた頑張りすぎる自分がいたことにも気付いて。その評価されたいという願望が、自分の本当の願いとズレていることが前より明確にわかったんですね。
深層にあるネガティブな感情に向き合うことで、自己理解が深まり、またひとつ奥から、何を大切にしたいのかが見えた経験でした。
私がコーチとしてクライアントさんとセッションをしているときも、こういった嫌な感情、見たくない感情に勇気を持って向き合うときに、すごく変化が起こると感じます。ネガティブな感情も、ポジティブな感情も含めて受け入れることができて、自分の内面が広がっていく実感があるからです。
例えば、絵を描くときのパレットには、明るい色だけじゃなく、グレーとか濁った色も欠かせませんよね。いろんな色のトーンがあるからこそ、深みや奥行きのある世界が生まれるようなイメージでしょうか。
そんな風に、嫌いな自分も全部含めて受け入れていくことで、より深い自己肯定や自信につながっていくのだと思います。
それともう一つあるとしたら、デザイナーとして培ってきた、ゴールがどこなのか、それがわからない中で自由に探求しながらかたちを創りあげる力です。
先程セッションの中で「落としどころを持たない」ことを大切にしているとお話しましたが、これはデザインにもすごく通じるところがあります。
デザインするときは、可能性を限定せずいろんな方向性からたくさん形をつくっていきます。常識にとらわれずに思いついたことを色々試していくことで、思わぬ掛け合わせが生まれて、理屈を超えてこれだ!というデザインに飛躍するときがあります。
コーチングも同じで、この価値観とこの価値観をあわせてみたらどうなるんだろう、わからないけど直感で投げかけてみよう、とをやってみたり(笑)。そこからどんなシナジーが生まれるのかワクワクしますよね。だから、直感が湧いたら失敗を恐れずに出すようにしていますし、その遊び心を大事にしています。
クライアントにもコーチにもわかっているところをセッションで問いかけても、そこに新しい発見はない。だからこそ、直感や遊び心を大事にして、思いがけないトライをどんどん試みたいですね。
そうしてコーチにもクライアントにも見えていない、未知の領域に近づいていって、まだ気付いていなかったその人自身の可能性を見つけていく、そんなお役に、もっと立っていけたらうれしいですね。
[取材]大門史果 [文]米澤智子 [編集]青木まりな [撮影] 伊藤圭